残渣処理など耕種的防除を組み合わせ、「サツマイモ基腐病(もとぐされびょう)」を上手に防除する。
近年、鹿児島などの九州地域を中心に「サツマイモ基腐病」の被害が拡大し、収量や生産意欲の低下、原料用加工業者への経済的影響が問題となっています。病気の特徴とその防除対策について、JA鹿児島県経済連 農産事業部 肥料農薬課の清水洋之課長にお話を伺います。
【JA鹿児島県経済連 農産事業部 肥料農薬課 清水洋之課長】
九州を中心に、近年「サツマイモ基腐病」が大きな問題になっているとお聞きしました。
鹿児島では、11,000haほどのかんしょが作付けされており、これほどの規模で生産している背景には、夏場の畑でも災害や病気に強い「防災営農作物」であることが挙げられます。夏場の畑でかんしょほどの面積で栽培できる代替作物がないことから、鹿児島でのかんしょの重要度は非常に高く、産地としてかんしょをしっかりと守っていく必要があるわけです。
鹿児島のかんしょでは、これまで特に問題となる病気は発生していませんでした。ところが、平成30年の秋に沖縄県において「サツマイモ基腐病」が日本で初めて確認されたのを機に、同年に鹿児島、宮崎でも確認され、その後福岡、長崎、熊本といった九州地域に拡大し、高知、岐阜、静岡と九州以外の地域でも確認されるようになりました。
鹿児島では、でん粉原料用、焼酎原料用、加工用、青果用といったかんしょを作付けしており、一部でも被害が発生した圃場を含めると、昨年は県のかんしょ圃場全体のうち約6割がサツマイモ基腐病の被害発生圃場となりました。
【サツマイモ基腐病 被害】
「サツマイモ基腐病」の特徴について詳しく教えてください。
本圃では、定植された苗の地際部分の茎が黒変する病徴から始まり、次第に地上部の茎葉、地中の塊根へと進展し、やがて地上部が枯死するようになり、塊根の腐敗にもつながります。青果用かんしょでは少しでも塊根に病徴が出ていると商品価値がなくなるので出荷することができません。
また、いも同士の接触により感染が広がるので、外観で病徴が確認できなくても病原菌に感染していれば貯蔵中に青果用かんしょや種いもにも感染していきます。このため、青果用では出荷後に病徴が発生しクレームにつながったり、種いもでは感染苗の本圃持ち込みリスクが高まります。
また、鹿児島ではでん粉原料用、焼酎原料用、加工用といったかんしょ作付けが青果用よりも大きな比率を占めているため、被害規模の大きさによっては、それらの原料用関連業界全体に影響を及ぼすことになり、生産現場の危機意識は非常に高まっているのが現状です。
【サツマイモ基腐病の被害圃場】
【黒変した地際部】
感染経路、発生しやすい条件について教えてください。
感染経路として、病原菌に感染した種いも・苗による「苗伝染」や、本圃での発病残渣による「土壌伝染」、発病茎葉の接触による「接触伝染」、雨水等の停滞による「胞子伝染」があります。この病気は水媒感染する土壌病害であり、発病部の柄子殻内に多数の胞子を形成し、それが湿度に反応して拡散するので、降雨などによって感染が広がっていく「胞子伝染」で一気に被害が拡大しやすいのが特徴です。
特に梅雨・秋期の長雨や台風の影響で被害が圃場にまん延しやすく、本圃で大きな被害をもたらしています。
地際から病徴が始まることから、初期段階には被害が目視しにくいため、梅雨明けや秋になって初めて被害に気付くことが多く、その頃はすでに手おくれの状態になっていることも少なくありません。
畝間にたまった雨水を媒介して胞子が拡散し、被害が拡大しやすい
「サツマイモ基腐病」の防除対策についてはいかがですか。
まず、前年多発した圃場では比較的抵抗性のある品種を選ぶのも一つの方法です。鹿児島で作付けされている主品種では、青果用・加工用の安納芋やべにはるか、べにさつま、焼酎用のコガネセンガンなどは抵抗性が弱い品種です。
また、でん粉用のシロユタカは中程度、新品種「こないしん」はやや強い品種で病徴の進展が遅いことから現場でも期待されている品種です。
実際の栽培における防除対策としては、育苗期と本圃での防除がポイントになります。育苗期は健全な種いもの確保と消毒が重要なので、採苗した苗の消毒も確実に行いましょう。本圃では排水対策、土壌消毒を実施するほか、発病株の抜き取りや薬剤による防除が大切です。
また、収穫後は残渣を残さないということが重要で、これがなかなか現場では徹底できていないことが課題の一つになっています。
収穫後の残渣処理が徹底されていないのはなぜですか。
サツマイモ基腐病の病原菌は、茎や葉といった収穫残渣の中に残存しており、残渣を栄養源として翌年も生存し続けます。かんしょ栽培の現場では、昔は収穫時のつるやクズいもを圃場外に持ち出していましたが、今は生産者の人手不足や高齢化を背景とした機械化・効率化のため、そのまま圃場に放置する場合が大半で、その残渣が伝染源となって感染が拡大する要因の一つになっています。
対策として実践していただきたいのは、発病株を見つけたらすぐに抜き取って圃場外に持ち出し、発病株周辺に殺菌剤を散布しておくこと。また、収穫時のクズいもやつるは圃場外に持ち出し、速やかに圃場を耕転して、その後も複数回耕転することで作物残渣の分解を促し、できるだけ残渣が残らないようにしましょう。
【残渣を放置すると感染の要因に】
昨年まで鹿児島では、本圃での薬剤防除をどのように実施されていましたか。
生産現場では、定植後の5月から収穫までの期間中に殺菌剤を散布していますが、現在使用されている殺菌剤は浸透移行性がないので、複数回にわたり散布する必要があります。
サツマイモ基腐病は主に、梅雨時期の6月に初発生し、夏から秋にかけての長雨や台風でさらに拡大しますが、夏以降、病気が一気に広がりはじめると止めることが難しいので、殺菌剤散布をあきらめてしまう生産者も少なくありません。そういう意味で、今年(令和3年)の3月にサツマイモ基腐病に適用拡大となったアミスター20フロアブル(以下、アミスター20)には期待をしているところです。
アミスター20のどのような点に期待されているのでしょうか。
アミスター20は浸透移行性を有しており、植物体の内側からも病気を防いだり、散布した後に新しく展開した茎葉などにも防除効果がある点が、今まで使用されていた殺菌剤にはない特長です。浸透移行する分、残効も長くなるので、アミスター20を1回散布することで、今まで使用していた殺菌剤数回分をカバーすることができ、薬剤コストと散布労力の軽減が期待できます。
鹿児島県では、今後どのような防除体系をお考えですか。
まず、他殺菌剤による定植前の苗消毒を必ず実践します。本圃では系統が異なる殺菌剤のローテーション防除が基本になりますが、苗消毒の効果が切れてくる定植5週目ごろを目安に、発病株の抜き取りと並行してアミスター20を1回散布することで、病原菌の密度を低く維持できます。
その後は気象条件によっても異なりますが、茎葉が畝間を覆う頃、畝間に水がたまるような降雨直後、台風直後などにアミスター20を散布するとサツマイモ基腐病を効果的に防除することが可能です。
私ども産地にとって絶対的な武器になる薬剤だと考えています。
【防除体系】
JA鹿児島県経済連では、ドローンを活用した受託防除事業を展開されているそうですね。
令和元年からかんしょ、ばれいしょ、水稲のドローンを利用した受託防除をスタートしました。昨年まで10名の防除チームでしたが、今年は6名を増員した体制でニーズに応えていきます。
かんしょの場合、昨年までは殺虫剤散布がメインでしたが、今年からアミスター20の散布も実施していく予定です。
ドローンによる防除のメリットは、圃場に足を踏み入れずに済むこと。地上防除のために茎葉が繁茂した圃場を歩くと、足で踏みつけた茎葉に傷ができて病原菌が侵入し、サツマイモ基腐病など病害への感染リスクが高くなるので、ドローンによる空中からの防除は非常に有効です。
生産者の方々はこうした受託防除による省力化と、浸透移行性を有したアミスター20という殺菌剤への期待が大きいようですね。
【ドローンによる受託防除】
今後のビジョンについて教えてください。
鹿児島県では、作付けするかんしょ全体の中で、ウェートが最も大きいでん粉原料用かんしょの生産の立て直しが喫緊の課題です。サツマイモ基腐病の被害が大きいと、原料のかんしょ自体が足りなくなり、先ほども申し上げた原料用関連業界への影響が大きい。ですから、サツマイモ基腐病防除対策をより強化していく必要があります。
そのためには、この病気への抵抗性が強い新品種「こないしん」の普及促進と同時に、アミスター20など防除効果の高い薬剤や耕種的防除などを組み合わせ、殺菌・殺虫を含めた総合的な防除体系をしっかり構築していかなければなりません。
そして、地域経済を含めたかんしょ生産を安定させること。これが一番大事です。
これから一つひとつ課題をクリアしながら、真摯に取り組んでいきたいと思います。