Facebookは、産地の壁を越えるか?約1万人のメンバーで農業の情報共有をめざす。

産地訪問
宮崎県のかんしょ生産者 上水広志(かみみずひろし)さん

約1万人のメンバーが参加するFacebookの農業者グループ「FB農業者倶楽部」を創設し、全国の農業者と農業関係者の新しいネットワーク構築をめざす宮崎県のかんしょ生産者 上水広志(かみみずひろし)さん。SNSを活用したコミュニケーションで農業はどう変化していくのか、その現状と可能性について伺いました。

Facebookの農業者グループを立ち上げることになった背景を教えてください。


両親は酪農を営んでいたのですが、私は大学卒業後、家業を継がずに地元のホテルに就職し、長年ブライダルの責任者として働いていました。以前から起業をしたいと考えていたこともあって45歳の時に就農し、現在は上水農園としてかんしょ5haのほか、にんじん、かぼちゃを手がけています。

Facebookで「FB農業者倶楽部」をつくろうと思ったきっかけは、日本の農業は地域の壁を超えた生産者同士の情報共有や相互理解といったつながりが乏しく、分断されている状況をなんとかして変えたいと考えたからなんです。大学時代からネットには詳しい方だったので、日本にFacebookが上陸して間もない2012年に、知人の農家と2人でこのグループを立ち上げました。

【フェイスブック「FB農業者倶楽部」】

 

フェイスブック「FB農業者倶楽部」

どのような方々がメンバーとして参加されていますか。


30~40代を中心とした日本全国の生産者が8割ほどを占めており、それ以外は農業資材メーカー、外食・食品関連業界、農水省や都道府県などの行政といった農業に関連した業界の方々が参加されています。生産者は稲作、畑作、園芸、果樹、畜産など様々な営農形態の方々が参加され、投稿を通じて活発なコミュニケーションが行われています。

【果樹栽培(イメージ)】

果樹栽培(イメージ)

【畑作(イメージ)】

畑作(イメージ)

農業にとってFacebookはどのような点がメリットだと思いますか。


まったく面識がないような農業関係者と知り合うことができ、それがリアルなつながりへと変化していくことです。設立当初は、興味深い研究をされている農研機構にお勤めの方や、独自の農業理論を実践されている微生物研究の専門家など、新聞や書籍で知ったインフルエンサーになりうる方々をFacebook内で検索し、ダイレクトメッセージをお送りしてグループに参加していただいたんです。そうした著名な方々もはじめはFacebook上だけでのコミュニケーションでしたが、オフ会(ネット上で知り合った人同士が、実際に集まって親睦を深める会合)にも参加いただいて、直接お会いし親交を深めていくことができました。

もしFacebookがなかったら、このような著名なインフルエンサーや他産地の方々と知り合うことはできなかったと思います。そういう意味でSNSは、農業にとって今後も必要になってくるツールと言えるのかもしれません。

「FB農業者倶楽部」では、どのようなテーマの投稿が多いのでしょうか。


当グループは、FacebookというSNSを利用した『新しい農業モデル』の議論を通じて、ビジネス感覚を持った多様な生産者を育成・支援するのが目的です。営農規模の相違など農業の多様性を尊重し、異論反論を受け止めて思考を相互深化させる『築論』の精神で活発なコミュニケーションが行われています。投稿の内容もバリエーションに富んでおり、例えば、「栽培、防除技術」「儲かる農業」「農産品のブランド化」「土壌の団粒構造」「消費者ニーズ」「6次産業化」など農業に関する様々なテーマについて、日々、質問・相談やディスカッションが交わされています。

こうした投稿・コミュニケーションをきっかけにメンバー同士が実際のビジネスに発展するケースもあり、私自身もこのグループを通じて知り合った方の会社に、かんしょやにんじんを出荷する機会をいただき、販売チャネルの拡大につながりました。

【Facebookでの投稿】

Facebookでの投稿

【各投稿には、メンバーからの質問・相談・意見が集まる】

各投稿には、メンバーからの質問・相談・意見が集まる

農業ビジネスのための社団法人も設立されたそうですね。


農業ビジネスに直結した情報交換のためのコミュニティ「一般社団法人 日本農業者ビジネスネットワーク(JFBN : Japan Farmers Business Network)」を2019年に設立しました。
当法人への入会は有料ですが、生産者や農業関連業界の方々約300名の会員で構成されており、農業ビジネスに関するオフ会、セミナー、講演会・展示会、オンライン勉強会を開催しています。

具体的にはどのような活動をされているのでしょうか。


例えば「農林水産省」のような行政組織というと、一般的な生産者の方には敷居が高いイメージがありますよね? そうした農水省職員と生産者の直接的なパイプをつくろうということで、農水省職員との意見交換会・親睦会を開催しています。 昨年来のコロナ禍の影響で、現在はオンラインのみの実施ですが、職員の方含め50人規模が参加し、「食料の安定供給」「農業イノベーション」「スマート農業」などの多角的なテーマで活発な意見交換が交わされています。

また、農業分野の専門家を講師に迎えた勉強会も月2回開催。こちらも現在はオンラインになりますが、「農家の生き残り戦略」「補助金セミナー」「技能実習生、雇用の確保」など農業ビジネスに直結するテーマの勉強会を開催中です。

【「日本農業者ビジネスネットワーク(JFBN)」では、定期的な勉強会を開催中】

 

「日本農業者ビジネスネットワーク(JFBN)」では、定期的な勉強会を開催中

今後のビジョンついてお聞かせください。


「FB農業者倶楽部」はバーチャルなつながり、そして「日本農業者ビジネスネットワーク」はリアルなつながりと言えます。これらバーチャルとリアルの農業関係者同士が連携することで、より強固なネットワークが生まれるのではないかと考えているので、双方のメンバー同士のコラボレーションをますます図っていきたい。そして、産地間における農業の情報共有、メンバーの関係性を深めることで、日本農業の発展につなげていきたいですね。

【上水広志さん】

上水広志さん