米卸最大手の(株)神明と地域農家がタッグを組み、新規就農者支援事業を展開。
次世代農業者の育成をめざして設立された(株)神明アグリイノベーション。地域の農家と連携をして新規就農者の支援に取り組んでいます。米卸最大手の神明が農家とともに取り組む支援事業を取材しました。
【目次】
技術、農地、設備をサポートアパートに住みながらでもできる米づくり
米づくりの未来のために。次世代農業者を育てる
(株)神明アグリイノベーションは、(株)神明ホールディングスの傘下で米卸最大手の(株)神明と、農業法人のりす(株)(埼玉県吉川市)〈以下、各社の(株)は省略〉との共同出資で、2023年9月1日に設立されました。のりすは県内の農家から米を集荷しており、神明と10年以上前から取引をしてきました。
神明ホールディングスは、これまで米の消費を増やすために様々な取組みを行ってきました。しかし高齢化や後継者難などの課題を抱える米づくりの現状と未来を考えると、必要なのは消費を増やすことではなく、“仲間を増やす”こと。その気づきが合弁会社の出発点だと神明アグリイノベーション取締役の松木飛鳥さんは話します。
「私たちは新規就農者を次世代農業者と呼んでいますが、会社設立の目的は地域の次世代農業者を増やすことです。高齢化などで離農が進むなか、これまでは地域の若手農家が農地を引き受けてきましたが、それも限界があります。離農のペースに対応するには、新しい仲間を増やさないといけない。新規就農者を専業米農家として独立できるように育成し、サポートする会社が必要じゃないかと、合弁会社を立ち上げました」。
のりすに出荷する農家が研修生に栽培技術を指導し、神明は共同で使える施設建設などを担い、独立後、収穫した米の買い上げも行います。地域の農家と米の卸会社が次世代農業者を独立するまで徹底的にサポートする仕組みです。
毎年2名の研修生を受け入れ、2~4年での独立が目標
研修生は神明アグリイノベーションの契約社員として給料をもらいながら、米づくりを学びます。年間約2名を受け入れ、2〜4年で専業米農家として独立させることが目標です。
1年目は地域の農家のもとで基本的な農作業を学びます。機械メーカーや県の農林振興センターのOOBなどの協力を得て研修を行うこともあるそうです。2年目からは、独立準備研修として約50aの水田で米づくりに取り組みます。作業計画を考え研修先からのアドバイスを受けながら、すべて一人で管理します。
現在は2024年4月入社の一期生が2名、2025年4月と5月に入社した二期生が2名の計4名が研修中で、早ければ2026年春には1名が独立する見込みです。
指導は基本的に移植栽培で行っていますが、リゾケアXLなどの直播栽培への関心を伺うと「将来的には考えていきたい」と松木さんは話します。
「育苗ハウスも必要ですし、育苗や田植えなど米づくりには人手と時間がかかります。今後、面積が増えていく場合は、省力化の手段の一つとして直播の指導も必須と考えています」。
地域の農家との連携の強みは農地の確保
独立時には青年就農給付金などの制度を活用できることはもちろん、約10haの農地が提供される予定です。新規就農者にとって農地の確保は、大きなハードル。「そこをクリアできることこそ、地域の農家と連携している強み」と神明アグリイノベーションに農家として協力し、同社取締役も務める鳥海 充さん(加須市の(株)とりうみファーム代表取締役)は話します。
「地域に縁のない会社や個人が、いきなり農地を探しても貸してくれる人はいません。でも地域の農家には、空いている農地の情報が集まってきますので、それを次世代農業者に紹介することができます。そこでしっかりと米づくりをすれば、それが実績となり、次世代農業者も神明アグリイノベーションの名前も地域に浸透していくことでしょう。地域に信頼されれば、次世代農業者に空いた農地を受け入れてほしいといった要請が直接届き、規模を拡大させていくことができます」。
加須市は市域面積1万3330haの約半分が農地で、その85%を水田が占めています。米の生産量は埼玉県内でトップを誇りますが、離農も多く、若手農家が育っていないのが現状です。平地が多く基盤整備も進んでいますが、それでも耕作放棄地が増えています。必要なのは、担い手となる次世代農業者。協力する農家もそこに危機感を感じ、神明アグリイノベーションの取組みに参加しています。
技術、農地、設備をサポートアパートに住みながらでもできる米づくり
米は新規就農者が挑むには厳しい作物と言われますが、その理由に設備投資があります。なかでも最も大きな設備投資はライスセンター(乾燥調整施設)です。数億円規模の投資が必要と言われ、新規就農者が個人で建設するのは非現実的。それを解決するために、神明アグリイノベーションでは、独立後も使用でき、初期投資を抑えるべくライスセンターを建設しました。独立後もそこを使うことで初期投資を大きく抑えることができます。
収穫した米をライスセンターに運び、その後、神明が全量を買い上げることで、次世代農業者は栽培に専念することが可能です。独立後も農地の獲得や追加投資が必要ですが、それも地域の農家と連携しながらサポートしていく予定だと言います。
「栽培技術が学べ、農地の確保もでき、ライスセンターもあり、地域の農家とも連携していますので、神明アグリイノベーションの近くで独立すれば、アパートに住みながらでも農業ができます。それがこの取組みの大きなメリットです」と鳥海さん。
松木さんは今後の見通しを次のように話します。
「短期的な利益の追求ではなく、持続可能な農業のため加須市にしっかり腰を据えて、地域の農家さんと一緒に農業をしながら、仲間を増やしていきます。会社員と違って自分の裁量で作業を決められる自由度の高さが農業の良さであり、楽しさだと思います。次世代農業者がそれを体感できるぐらいの規模感で独立し、やりたい農業を実現してもらいたいです。神明アグリイノベーションが大きな法人になることよりも、思い描く農業をする仲間を増やしていくことを優先したい。そういった経営をめざします」。農業の大きな課題である水稲栽培の継承に取り組む同社の事業。今後ますます注目されていくことでしょう。
株式会社 神明アグリイノベーション取締役
松木飛鳥さん
※掲載内容は取材当時のものです。
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