ダイズ紫斑病防除は、耐性菌対策を考慮した防除体系に!

病害虫・雑草コラム
ダイズ紫斑病に罹病した紫斑粒

無人ヘリコプターやドローン等での防除が進む岩手県における、ダイズ紫斑病の上手な防除方法について、岩手県農業研究センター生産環境研究部病理昆虫研究室の岩舘康哉さんと佐々木陽菜さんにお話を伺いました。

岩手では水田転換畑でのだいず栽培が拡大


岩手県におけるだいずの栽培面積は、2003年(平成15年)ごろから4,000haを越え、それ以降ほぼ横ばいで推移し、近年は水田転換畑での作付が拡大しています。生産者の経営体数は減少しているのですが、大規模生産者の増加により1経営体当たりの栽培面積が増え、豆類の栽培面積は横ばいで推移しているのが現状です。

【岩手県におけるだいずの作付け面積に占める畑地・水田転換畑の面積(農林水産省農作物統計データより作成)】

岩手県におけるだいずの作付け面積に占める畑地・水田転換畑の面積(農林水産省農作物統計データより作成)

課題は「基盤整備」「地力低下」「難防除雑草」


だいず栽培での課題ですが、まず一つ目は、「生産基盤の未整備」で、管内のだいずのほとんどが水田で栽培されるため、排水対策で苦慮しています。また、圃場整備を進めて大区画で効率良く栽培できていない生産現場が多く、転作のブロックローテーションや団地化が進んでいません。

二つ目は、「地力の低下」です。だいずは地力を消耗する植物なので、水稲3年だいず2年のローテーションで地力低下はほぼ防げますが、実際は連作による畑地化が進んでおり、単収は伸びていません。

三つ目は、「難防除雑草の発生や気象条件の不安定化」です。経営体の作付面積も大きくなっており、「帰化アサガオ類」や「アレチウリ」等の難防除雑草が侵入している圃場が多くなっています。
また、近年、干ばつや大雨などが繰り返されており、生育途中の大きなストレスとなっているほか、長雨や温暖化などの影響により病害虫の発生が増え、収量・品質低下の原因の一つとなっています。

【だいず圃場に繁茂したアサガオ】

だいず圃場に繁茂したアサガオ

【アレチウリ】

アレチウリ

以前は県内生産者全体の4割が被害に!?


「ダイズ紫斑病」は以前から発生していたと思われます。記録が残っているのは昭和53年からで、当時は水田転換畑での紫斑病発生が多く、転換畑では、被害粒率5%以上の農家が全体の40%に達した、という記録が残っています。昭和54年には、岩手県立農業試験場において、「転換畑で多発生するダイズ紫斑病の防除方法の確立」を目的に試験が行われました。

岩手県病害虫防除所の調査によると、ここ数年は、「ダイズ紫斑病」を対象とした防除が100%に近い圃場で行われていることから、被害程度が高い圃場割合は少なく、少発生で推移しています。

【ダイズ紫斑病発生圃場率(岩手県病害虫防除所 平成30年度植物防疫事業年報より)】

ダイズ紫斑病発生圃場率

収穫する種子に紫色の斑紋が広がり品質低下


ダイズ紫斑病は、糸状菌Cercospola kikuchiiによって引き起こされる糸状菌病害で、だいずの葉、茎、莢、子実など地上部全てに発生。主に種子のへそを中心に紫色の斑紋を生じ、種皮全体に広がって品質低下をもたらします。実際には、収量低下に結びつくほどの被害となることは少ないのですが、紫斑粒の発生による等級低下が問題となる病害です。

東北6県のなかで、発生頻度が高い理由とは?


東北6県のダイズ紫斑病発生圃場率を比較すると、他県よりも岩手県の発生が多い傾向にあり、その理由の一つとして、だいずの品種構成があげられます。宮城県、山形県、福島県では、ダイズ紫斑病抵抗性が「強」の品種が栽培主体となっていますが、岩手県では、これが「中」の品種「リュウホウ」が主体で、県内の作付割合が50%以上にのぼります。

また、もう一つの理由として、水稲同様にだいずの無人航空機防除の面積割合が増加しており(岩手県のダイズ紫斑病防除面積:無人ヘリコプター散布は約1,660ha〈散布割合約36%〉、ドローンによる散布は約78ha〈散布割合約1.7%〉)、天候等の影響で適期散布ができない場合が多いという事情があります。また、個人の防除でも適期に散布されていない事例が多数見受けられます。

【東北各県 だいずの主力品種とダイズ紫斑病の抵抗性度合】
(農林水産省および各県のだいず品種特性表より作成)

県名 品種名 紫斑病抵抗性
青森県 おおすず
岩手県 リュウホウ
ナンブシロメ
シュウリュウ やや強
宮城県 ミヤギシロメ
タチナガハ
タンレイ
秋田県 リュウホウ
山形県 里のほほえみ
エンレイ やや強
リュウホウ
福島県 タチナガハ
あやこがね

抵抗性品種の利用は進まず


葉と莢の発病適温は20℃前後とされており、岩手県では8月下旬以降(開花20~30日前後:若莢期)に気温が20℃付近となることから、この時期に降雨が続いた場合、感染が多くなります。ダイズ紫斑病は、一般的に中生品種より晩生品種で発病が少ないことが知られていますが、先ほど申し上げたように、だいずの品種間で抵抗性の差異があります。

しかし、現実には食品メーカーなどが求める子実品質のだいずを栽培する必要があるため、耕種的防除法としての抵抗性品種の利用は進んでいません。

無人ヘリコプターやドローンの防除では、期間中2回の散布を推奨


ダイズ紫斑病に対する防除効果が高い薬剤は、開花25~35日後に1回のみの散布で十分な効果を発揮するため、これを推奨しております。1回の散布では効果が不十分な薬剤については、若莢期(開花後20日頃)から子実肥大期(開花後40日頃)の期間中に系統の異なる薬剤を2回散布するように指導しています。

また、無人ヘリコプターやドローン等の無人航空機による防除の場合、莢への薬剤付着が地上散布よりも劣るので、薬剤の種類にかかわらず、2回散布する必要があります。2回散布体系の場合には、耐性菌の発生を防ぐため、1回目に用いる薬剤と2回目に用いる薬剤は異なる系統の薬剤を使用するように指導しています。

現場での評価が高い「アミスター20フロアブル」、代替剤として期待が高まる「プランダム乳剤25」


アミスター20フロアブルプランダム乳剤25は、ダイズ紫斑病に対して防除効果が高い薬剤です。どちらの剤も開花25~35日後の散布をおすすめしており、十分な効果が期待できます。アミスター20フロアブルは、以前からダイズ紫斑病の基幹防除剤の一つとして使用されており、現場での評判も非常に高いですね。

また、これまで活用されてきた基幹防除剤のひとつが農薬登録の変更によりダイズで使用できなくなりました。そのため、代替剤としてプランダム乳剤25への現場の期待が高まっています。

防除のポイントは、「種子更新・種子処理」「薬剤の適期散布」


ダイズ紫斑病については、開花期以降の天候によっても感染・発病の増減はありますが、基本的には種子更新および種子消毒の実施、適期の薬剤散布を実施することで十分に被害を回避できる病害です。この病気は、収穫時期が遅れるほど発病が増加することから、収穫後の速やかな乾燥は被害軽減に有効です。罹病種子が第一次伝染源となるため、自家採種せずに毎年健全な種子を購入して使用することが重要。健全な種子を購入したら、クルーザーMAXXによる種子処理を行うようにしましょう。

クルーザーMAXXの有効成分の一つフルジオキソニルは、ダイズ紫斑病に対して効果があり、散布剤として使用されるアミスター20フロアブル、プランダム乳剤25とは異なる系統の薬剤でもあることから、耐性菌マネジメントの観点でも有効です。

「ダイズ黒根腐病」には、今後注意が必要?


今後の問題病害として考えられるのは、ダイズ黒根腐病です。これまでも本病は岩手県内で発生していましたが、近年は水田転換畑での被害が目立っています。感染・発病しただいずは、生育が抑制され、著しい場合は早期に枯れ上がることから、収量被害に結びつく病害です。全国的にも水田転換畑での多発生が問題となっているため、今後の発生動向には注意が必要といえるでしょう。

岩手県農業研究センター 生産環境研究部病理昆虫研究室の岩舘康哉さん(左)と佐々木陽菜さん(右)

岩手県農業研究センター 生産環境研究部病理昆虫研究室の岩舘康哉さん(左)と佐々木陽菜さん(右)

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