春先の温暖化により感染時期が早期化。 りんごの病害は同時防除がこれからの課題
「以前と比べて、りんごの病気の出方がまったく違います」と話すのは、岩手県病害虫防除所の猫塚次長。その異変の原因を探る中で、たどり着いた答えが「春先の温暖化」でした。春先の平均気温が上昇したことで、黒星病や褐斑病といった主要病害の感染時期が早まり、従来の防除体系では対応が難しくなっているといいます。気候変動により変化する病害虫防除への対応について、岩手県の取組みを伺いました。
【目次】
春先の平均気温が1〜2℃上昇し、黒星病と褐斑病の感染が早期化
褐斑病:「開花直前」の殺菌剤は、複数の病害に対応するスペクトラムの広さが重要
春先の平均気温が1〜2℃上昇し、黒星病と褐斑病の感染が早期化
黒星病が1980年代に深刻な問題になったことがあるという岩手県のりんご栽培。DMI剤の登場により、しばらくは沈静化していたものの、2015年を境に再び猛威を振るうように。もう一つの重要病害である褐斑病についても、2017年頃から急激に発生が増加したといいます。
黒星病の再発生について、考えられる要因は『薬剤が効かなくなっていること』と『防除適期を逃していること』。猫塚次長が最初に疑ったのは、後者の『防除適期の逸脱』でした。
「恒常的に防除適期が守られているかを検証することが第一です。適期を守っていても病害が発生している場合は、次に薬剤耐性菌の可能性を考慮します。盛岡市の気象データを調べたところ、2015年以降、春先の平均気温が1~2℃上昇していることが分かりました。1980年代に黒星病が多発した年も例年より高温であり、気温上昇が防除適期のズレを引き起こしていることは明らかでした」。
りんごの生育には1〜2℃の気温差は大きな影響を与えないものの、春先に感染する病害の場合、病原菌は温度変化に非常に敏感であり、感染活動が一気に活発化してしまうのだとか。従来、黒星病の感染時期は5月初旬の「開花直前」でしたが、2015年以降は7〜10日ほど早まり「花蕾着色期」から感染が始まるように。
褐斑病については、平均気温が13.8℃以上かつ濡れ時間が6時間以上継続する条件下で感染が始まることが、岩手県農業研究センターなどの研究により確認されています。この感染好適条件を満たす時期は、従来は落花期以降とされていましたが、近年は開花期まで早まっているといいます。
黒星病:一次感染期の拡大とともに、開花期の二次感染も課題に
「春先の温暖化により、黒星病の感染時期が早まり、植物の感受性が非常に高い『花蕾着色期』から一次感染が始まります。この時期に感染が起こると、果実病斑が生じやすく、被害が深刻化しやすいのです」と猫塚次長。そして、その防除の難しさについて、次のように説明します。
「これまでは『開花直前』にDMI剤を散布することで黒星病を抑えることができていましたが、感染が10日も前に始まってしまうと、抑えることは困難。せめて感染が3日前であれば、治療効果によって発病をゼロに抑えることが可能ですが、それ以前の感染では発病を防ぎきれません」。
さらに、「花蕾着色期」に感染すると、開花期から二次感染が始まることも防除を難しくする要因となっています。
「開花期は花が咲くだけではなく、若葉や新梢が出てくる時期でもあります。『開花直前』の散布では、それらの部位には薬剤が付着しないため、予防効果の劣るDMI剤では開花期の二次感染を防ぐことが難しいのです」。
このように、春先の温暖化によって一次感染が早期化し、感受性の高い「花蕾着色期」に感染が拡大。さらに、若葉や新梢が展開する開花期に発病し、濃厚な二次感染が起こるという悪循環が生じていました。この状況を打開するため、岩手県農業研究センターでは新たな防除体系の構築に取り組みました。
「黒星病に対して予防効果と治療効果を併せ持つSDHI剤は、『花蕾着色期』だけでなく『開花直前』にも配置しなければ、抑制は難しいと判断しました。一方で、SDHI剤を連用することによる耐性菌のリスクもあるため、『開花直前』にはSDHI剤と保護殺菌剤の混合剤の使用が不可欠でした」。
SDHI剤の中でも、黒星病に対する効果が優れており、かつマンゼブとの混合剤として開発されたのが『キワミPZ水和剤』でした。
褐斑病:「開花直前」の殺菌剤は、複数の病害に対応するスペクトラムの広さが重要
「私が前職に着任した2022年に、夏期間の散布による委託試験を実施したところ、キワミPZ水和剤を散布したりんご樹では褐斑病の発生が少なく、秋まで葉がきれいに残っていました。そこで、本剤を『開花直前』に使用した方が良いのではないかと考え、翌年以降はサンプルによる自主試験を行いました。その試験結果を踏まえ、2025年の県病害虫・雑草防除に関する技術資料(旧:防除指針)では、キワミPZ水和剤を『開花直前』に採用しました」と猫塚次長。
この採用を急いだ背景には、2024年に岩手県内で褐斑病が猛威を振るった異常事態がありました。
「集中豪雨の多発が主な原因と考えています。褐斑病は強い雨を利用して胞子を飛ばしながら二次伝染する病気なので、多くの園地で急激に被害が広がりました。9月にもかかわらず、落葉によって丸坊主状態になったりんごの木もあったほどです。このような園地が県内の主要産地でも散見されましたので、一刻も早く対策を講じる必要がありました」と猫塚次長は、2024年の異常発生を振り返ります。
「この事態を受け、一次感染を対象とした防除を強化するために『開花直前』にも効果の高い薬剤を配置することにしました。しかし、『開花直前』に使用する殺菌剤には、黒星病、赤星病、うどんこ病、モニリア病に加えて、近年は褐斑病を含めた5病害に効果を示す幅広いスペクトラムが求められます。特に、黒星病と褐斑病の両方に高い効果を示す薬剤は非常に少ないので、キワミPZ水和剤はその点で大きな強みを持っています。
黒星病と褐斑病の両方に課題を抱えている地域は、キワミPZ水和剤の使用を検討されてみてはいかがでしょうか」。
最後に、全国の生産者をはじめ、りんごづくりに携わる方々に向けて、猫塚次長から応援のメッセージをいただきました。
「現在、りんご栽培における最大の課題は、温暖化への対応だと思います。今後、平均気温はさらに高くなることが予測されており、これまで以上に発生予察に基づいた防除が重要になってきます。国でも、気象データを活用した病害虫の発生予測技術の開発に取り組んでおり、こうしたデータを活かすことで、臨機応変な防除が可能になるかもしれません。我々も、発生予察のさらなる精度向上を通じて、皆さまのりんごづくりに貢献していきたいと考えています」。
※写真提供(病害):岩手県農業研究センター
※掲載内容は取材当時のものです。
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