根腐病がもたらす新たな脅威が明らかに。 人と環境にやさしいユニフォーム粒剤の可能性に迫る

病害虫・雑草コラム
ユニフォーム粒剤_試験区_青森県産業技術センター 野菜研究所
(青森県産業技術センター 野菜研究所)

ながいもの宿敵ともいえる根腐病。発生させてしまうと品質を落とすばかりか、大幅な減収につながることも。さらに近年、この根腐病が新たな病害を誘発している可能性が高いことがわかりました。その病害をより安全に防除できる薬剤として期待される、ユニフォーム粒剤の可能性に迫ります。

謎の腐敗症状の正体が明らかに。それを誘発する可能性の高い病害とは


 青森県の農業を技術面で支えるべく、ながいも、にんにくなど特産野菜の栽培改善、新作型開発、施肥改善、新品種開発、優良種苗・種子の生産、病害虫管理技術の開発および技術相談を行なっている「青森県産業技術センター 野菜研究所」。同研究所内の病害虫管理部では、上記の特産野菜における輪作体系の開発や、問題となる病害虫の生態解明および防除対策の確立などを担っています。

 年間約55,800トンの収穫量を誇り、全国シェアの40%を占める青森県のながいも。その収穫後に多くの生産者を悩ませていた症状の正体が明らかになりました。「以前より収穫貯蔵後などに見られる腐敗症状が大きな問題となっていました。病害虫管理部では2018年から2020年に青森県内のながいもで発生した腐敗症状の病原を調査した結果、ある細菌が深く関わっていることを究明しました。私はその細菌を『ヤマノイモ腐敗細菌病』と名付け、2022年の論文で発表しました」と話すのは、病害虫管理部の近藤 亨部長。ながいもの表面に暗褐色から黒色の病斑が見られ、腐敗部分は陥没し、切断面は黄色く変色することもあるというヤマノイモ腐敗細菌病。このヤマノイモ腐敗細菌病を誘発する可能性のひとつと考えられているのが、根腐病なのだといいます。

ヤマノイモ腐敗細菌病の症状
【ヤマノイモ腐敗細菌病の症状】(青森県産業技術センター 野菜研究所)

環境負荷や健康被害への懸念から、毒性の高い土壌くん蒸剤は削減の傾向


 「ヤマノイモ腐敗細菌病は、栽培時に病原菌などによって生じた傷などから感染する可能性が高いと考えています。その病原菌の代表ともいえるのが根腐病です。根腐病は青森県でも古くから問題になっており、発生すると収量・品質に多大なる悪影響を与えます。病害虫管理部においても、長年にわたり防除対策を研究し続けてきました」と近藤部長。その基本となるのが輪作とのこと。

 「根腐病の発生を回避するための基本は、なんといっても輪作です。そこで私たちは根腐病菌が作物にどのような影響を与えるかを調査し、ながいもの輪作に組み入れる作物としては、ねぎ、にんにく、緑肥が向いていることをこれまでに明らかにしています」と、より効果的な輪作の方法にも言及する近藤部長。

 しかし、どうしてもながいもを連作しなければならない場合や、根菜類の栽培が続いてしまい根腐病が発生してしまったときは薬剤に頼らざるを得ません。青森県においても、古くから根腐病対策には毒性の高い成分を含む土壌くん蒸処理が広く行われてきました。ところが、環境負荷や作業者の健康への懸念から、近年は使用量の削減が求められる傾向に。近藤部長も「環境や人体への影響以外にも、土壌くん蒸剤を使用してながいもを連作すると、使用をやめた際に根腐病の被害が拡大する傾向が認められています」と、そのリスクに警鐘を鳴らします。

毒性の高い土壌くん蒸剤の代替剤として期待される、ユニフォーム粒剤


 そんな毒性の高い成分を含む土壌くん蒸剤に代わる根腐病対策の薬剤として期待されているのが、人と環境により安全な製品で、持続可能な農業を支援する「ユニフォーム粒剤」。病害虫管理部では2022年にユニフォーム粒剤と毒性の高い成分を含む土壌くん蒸剤A剤(以下、土壌くん蒸剤A剤)をさまざまな角度から比較。代替剤としての可能性を模索されました。

 「ユニフォーム粒剤と土壌くん蒸剤 A、そして無処理の試験圃場で比較した結果、ユニフォーム粒剤は、発病株率、発病度とも土壌くん蒸剤 A剤と同程度の低いレベルに抑えました。また、10aあたりの処理コストにおいては、被覆資材費、人件費、廃プラスチック処理料を削減できるためユニフォーム粒剤を使用するケースのほうが土壌くん蒸剤処理を下回ります。特にユニフォーム粒剤は1人で作業できるのに対して、土壌くん蒸剤は薬剤処理およびポリマルチの被覆と除覆に複数の作業者が必要になり、人件費において大きな差が生まれました」と近藤部長。

ヤマノイモ根腐病に対するトレンチャー耕同時処理でのユニフォーム粒剤の防除効果
試験圃場で育ったながいも
【左からユニフォーム粒剤、土壌くん蒸剤 A剤、無処理の試験圃場で育ったながいも】
(青森県産業技術センター 野菜研究所)

 ユニフォーム粒剤は青森県のながいも生産者に普及するでしょうか?という質問に頷きながらその理由をこのように話します。「チェーン式とホイール式のトレンチャーを比べた場合、効果に有意な違いはありませんでした。青森県内ではホイール式のほうが生産者の間に普及しているため、これは良い結果だったといえます。トレンチャー耕と同時に施用できることは手間や労力の低減につながりますので、普及の追い風になるのではないでしょうか」と今後への手応えをにじませます。

供試機
【ユニフォーム粒剤は1人で散布作業を行えることも大きなメリット】
(青森県産業技術センター 野菜研究所)
トレンチャーの種類
【チェーン式のトレンチャー(左)とホイール式のトレンチャー(右)】
(青森県産業技術センター 野菜研究所)

輪作を心がけながら、人にも環境にもやさしい薬剤を上手に活用して


 「これまで根腐病に有効な薬剤が土壌くん蒸剤しかなかったことを考えると、防除効果と安全性を両立し、しかもコストメリットも見込める選択肢が得られたことは大きいと思います。ユニフォーム粒剤には土壌くん蒸剤の代替剤として、多くのながいも生産者に貢献してくれることを期待しています」と今後への展望を述べる近藤部長。それと同時に「使い方や使い過ぎにはくれぐれも注意していただきたい」と警鐘を鳴らします

 「ユニフォーム粒剤は土壌くん蒸剤が有する効果のすべてを置き換えられるわけではありません。また、あまりに頼りすぎて効かなくなってしまっては意味がないので、耐性菌を発生させないためにも同じ圃場での連年使用は避けるべきでしょう」と上手な利用を喚起する近藤部長。

 最後に「くどいようですが」と前置きをしながら、「根腐病などの土壌病害は発生させないことが最も重要です。可能なかぎり輪作を心がけながら人にも環境にもやさしい薬剤を上手に活用し、青森県ひいては日本の農業の発展をともに支えていって欲しいと思います」と、青森県内のながいもづくりを支えるすべての生産者へ、熱いエールを送ってくださいました。

 

青森県産業技術センター 野菜研究所
病害虫管理部 近藤 亨部長

掲載内容は取材当日のものです

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