人が邪魔だと思う植物が雑草。人が関わり合いを持たない植物は雑草にならない

病害虫・雑草コラム
農研機構植物防疫研究部門雑草防除研究領域雑草防除グループ長・農学博士 浅井元朗様

雑草対策は農業生産現場における大きな課題の1つです。繁殖力が旺盛な雑草に作物の成長を妨げられ、その対策に苦心している方も多いことでしょう。雑草とはどんな植物なのでしょうか。そしてどのように関わっていけばいいのでしょうか。農研機構植物防疫研究部門雑草防除研究領域雑草防除グループ長で農学博士の浅井元朗先生にお話いただきました。

邪魔だと思えばそれが雑草。雑草とは、農地や緑地において人の管理をすり抜ける植物

雑草とは、農地や緑地などで人が管理する土地に生育し,邪魔だ、困ったと感じる植物のことです。作物も人との関わりようによって雑草になります。たとえば同じ圃場でも、そばの次に麦を作り、そこにこぼれた種子から出てきたそばは雑草になり、じゃがいもの掘り残しが次の作物の中から出てくれば野良イモとして雑草扱いになります。そういった人の管理をすり抜けるすべを持った植物が雑草とよばれます。

雑草魂という言葉に象徴されるように、雑草には強くてたくましいイメージがありますが、11つは決して強くはありません。種子から発芽した幼植物のうち最後まで成長できるのはごくわずかですが、生き残った植物が目立って邪魔なので、たくましいという印象を感じているだけなのです。どんな種類が,どのぐらい生き残っているのか、それを1株ずつ見ていくと決して強いものではありません。

ではどんな植物が管理をすり抜け、雑草として広がるのでしょうか。それは作物の管理パターンと雑草の特性の組み合わせに影響されます。耕起した後に芽生えた雑草が圃場で生き残ると、種子や地下茎を増やします。そこに、翌年、同じ栽培管理が行われれば、数が爆発的に増えてしまいます。

農作業や草刈りをする際には、雑草と十把一絡げにしてしまいがちですが、どの植物にもどんな条件で広がるかの特徴があり、季節ごとの移り変わりがあります。特定の雑草が広がらないようにするには、それぞれの特徴を知り、対策することが大切です。

図鑑通りには成長しないのが植物の特徴。環境や時期によって大きさや形が変化する

最近は、スマートフォンのカメラで道ばたの植物の花を撮影するだけで候補の種が示されるというアプリが登場しています。現在の技術レベルでは、さまざまな雑草の芽生えが混在する1枚の写真ですべての種を正確に特定するのはまだ先でしょう。植物には、環境や生育段階で形を変えていく特徴があります。昆虫であれば幼虫からさなぎを経て成虫になる完全変態の種であっても、幼虫の形のまま成虫になる不完全変態の種であっても、ほぼ図鑑に描かれている通りの形に成長していきます。

しかし植物は遺伝的には同じ種でも、環境によって、あるいは発芽時期によって形が異なります。たとえば、ある種の夏草は作物の播種と同時に出芽したものと、一定期間防除して遅い時期に出芽したものとでは、大きさが異なります。冬草の場合も、秋に出芽してロゼットで越冬後、春に花を咲かせるものと、春先に発芽しロゼットを作らずに開花するものでは、大きくサイズが異なります。葉の形や枚数なども変化するため、同じ植物で、同じ親であっても、素人目には同じ種類には見えないくらいの違いが生じます。ただし、全体の大きさは異なっても、花弁やおしべ、めしべの数、実の形などは変わりません。

日本の農業現場に“雑草”が登場したのは昭和30年代以降

雑草が問題視されるようになったのは、昭和30年代以降でしょう。明治時代から昭和20年代までは雑草という捉え方はなかったようです。明治時代から戦後すぐの頃までの農村の写真見ると、とてもきれいで、雑草などは見当たりません。人里の植物は家畜の餌であり、肥料であり、燃料であり、すべて資源として利用されていました。草を刈り、牛馬に与え、ふん尿を肥料にして畑に戻していました。草も木もすべてが資源であった社会では雑草は存在しなかったのです。

それが社会や農業の変化と共に、作物以外の植物は利用されなくなりました。作物の栽培体系をすり抜けたものが雑草とされるようになりました。作物の栽培方式や、他の作業によっても雑草の広がり方は異なりますが、収穫後の圃場に雑草の種子が残っていると、翌年にこれが発芽し、何倍にも増えてしまうことがあります。

雑草対策の鍵はとなるのは発芽し始めた初期段階

農業現場で雑草となる植物の特徴の1つとして、栽培作物と似た特徴を持ったものが選抜される傾向があります。たとえば水田のヒエは、同じイネ科で茎や葉の特徴も似ているため、初期段階では見分けるのが難しく、気づかない間に生育して作物に悪影響を与えるので稲作ではとてもやっかいな存在です。

日本の植物保護行政内で雑草はこれまで対象外だったことも影響して、病害虫と比較すると雑草に関する研究開発は進んでいるとは言いがたい状況です。特に問題が発生し始めた初期の対策をどうするかの研究が進んでいません。しかし、まん延前の初発時点の雑草対策こそ重要です。早めに状況を確認し、危険を判定して情報を共有し、技術的、社会的に適切な初期対応がなされれば雑草問題も変わってくるでしょう。

農研機構植物防疫研究部門雑草防除研究領域雑草防除グループ長・農学博士 浅井元朗様

【農研機構植物防疫研究部門雑草防除研究領域雑草防除グループ長・農学博士 浅井元朗様】

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