小麦の重要病害「赤かび病」の特徴と防除ポイント

病害虫・雑草コラム
赤かび病が多発する小麦圃場

小麦は乾燥を好む作物で、年間降水量500~1000mmの地域で栽培されています。これに対し、日本の年間降水量は1700mmと降雨が多く、海外に比べると穂発芽や赤かび病などの病害の発生リスクの高い条件で小麦を栽培しています。赤かび病多発による収量・品質の低下はもちろん、カビ毒(デオキシニバレノール 以降DON)を産出する菌もある小麦の赤かび病について、北海道立総合研究機構の小澤徹先生にお話を伺いました。

気象条件によって多発しやすい、小麦の重要病害「赤かび病」


赤かび病は、イギリスで1884年に初めて発生が確認され、その後各国で発生が報告されました。日本では、今から120年前の1901年に初めて発生が記録され、古くから小麦の重要病害として知られています。

近年は効果の高い薬剤も開発され、昔に比べると大きな被害になる頻度は少なくなっていますが、過去10年では2011年、2012年、2016年および2018年は全国的に発生が多くなりました。気象条件によっては多発する場合があり、依然として小麦栽培においては重要な病害です。

 

開花後から乳熟期に現れる「赤かび病」の症状


赤かび病に感染すると、はじめ開花後から乳熟期にかけて小穂の一部または小穂全体が褐変し、白く枯れてきます。乳熟期から成熟期になると、感染した小穂の穎の合わせ目や小穂の表面全体に桃色から橙色の分生子の塊(スポロドキア)を生じます。

【赤かび病発病穂スポロドキア】

赤かび病発病穂スポロドキア

発病が穂軸まで及ぶと、そこから上部の小穂は枯死します。被害子実は、赤かび粒と呼ばれ、粒が細く、白く退色してしわがより、ときに桃色がかって見えます。

【赤かび病が発病した小麦の粒(上)と健全な粒(下)】

赤かび病が発病した小麦の粒(上)と健全な粒(下)

 

「赤かび病」の主な感染源は植物残渣や小麦の枯死葉身などで形成される子のう胞子、最も感染しやすいのは開花期


赤かび病の主な感染源はトウモロコシ、イネ、ムギ、イネ科牧草等の宿主植物の残渣や小麦地際部の枯死葉身、葉しょうに形成された子のう殻より放出される子のう胞子です。子のう胞子の飛散は降雨の後で湿度の高いときに多く認められます。また小麦の穂は開花期から開花盛期に最も赤かび病に感染しやすくなります。この時期に降雨の多いときは著しい被害をもたらす恐れがあります。

【とうもろこし残渣上に形成した子のう殻】

とうもろこし残渣上に形成した子のう殻

小麦の食の安全や収量・品質を守るために「赤かび病」防除の徹底を


赤かび病は、穂に発生するため、多発すると収量および品質が低下します。また、赤かび病菌の中には人畜に有害なカビ毒を産生する菌種があり、感染した小麦粒はカビ毒に汚染されます。2002年にはカビ毒の一種であるDONによる汚染の暫定基準値1.1ppmが設定され、これを超える小麦については市場流通を規制していましたが、2022年4月よりこの暫定基準値は廃止され、新たに基準値1.0ppmに変更され、規制が強化されています。このように赤かび病は、収量や品質の低下だけでなく、食の安全性確保という観点からも、防除を欠かせない重要病害となっています。

 

問題を引き起こす「赤かび病」の原因菌 フザリウム・グラミネアラム種複合体とミクロドキウム・ニバーレ


赤かび病の原因菌は複数種知られています。このうち主に発生が問題となる菌種は、カビ毒(DON)汚染の原因となるFusarium graminearum(フザリウム・グラミネアラム)種複合体です。この他に北海道ではMicrodochium nivale(ミクロドキウム・ニバーレ)が多発して減収被害をもたらすことから防除対象として重要な菌種です。

Fusarium graminearum種複合体

Fusarium graminearum(フサリウム・グラミネアラム)種複合体

Microdochium nivale

Microdochium nivale(ミクロドキウム・ニバーレ)

DON汚染低減に効果の高い薬剤を選び、 開花期とその後の追加散布が基本


赤かび病の防除は、DON汚染低減に効果の高い薬剤を散布することを基本とし、最も感染しやすい開花時期の感染を抑えることが重要です。赤かび病に対する抵抗性の程度は、品種によって異なるので、抵抗性の程度に応じて追加散布が必要となります。

北海道の秋まき小麦の場合、1回の散布では開花時期の感染を十分に防ぐことができないことから、開花始に散布しその7日後に追加散布を実施します。さらに生産現場では開花のばらつきなどを考慮し必要に応じてさらに追加で散布している場合もあります。加えて、北海道でニバーレの発生が問題になる地域ではDON汚染低減とニバーレの両方に効果の高い薬剤を選択します。

【薬剤散布時期・回数の違いによる防除効果の比較 2005年「ホクシン」】

薬剤散布時期・回数の違いによる防除効果の比較

また、都府県では開花期に散布し、10~20日後に追加散布するのが一般的です。いずれにせよ、十分な防除効果を得るには適期に散布することが重要です。散布時期が遅くなると十分な防除効果が得られない場合があり、穂が完全に出穂していないタイミングで散布すると、薬剤の効果が十分に発揮できない場合もあります。適期に防除するために圃場観察を行い開花の状況を把握することが重要です。また、倒伏するとカビ毒の汚染リスクが高まりますので、適切な肥培管理を行うこともカビ毒対策に繋がります

発生が確認された耐性菌の状況、同一系統の薬剤連用リスク


グラミネアラムでは2004年に大分県で初めてMBC剤耐性菌が確認され、その後福岡県、熊本県および三重県でも発生が確認されています。いずれも分離頻度は低く、防除効果が低下している報告はありません。赤かび病の防除も同一系統の連用を避け、耐性菌の発生リスクにも考慮した防除が必要です。ニバーレでは、北海道でMBC剤およびQoI剤で耐性菌が確認されており、道内に広く分布していると考えられます。

近年、赤かび病に対して効果の高い薬剤が開発されています。今後はこのような剤を活用し防除効果を維持しつつより省力的な防除が必要になると考えられます。

 

北海道立総合研究機構 小澤徹先生

地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 農業研究本部 中央農業試験場 病虫部
予察診断グループ 主査 小澤徹先生
※掲載内容は取材当時のものです。
※2022年4月改訂。

 

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最も感染リスクが高い「開花期」に散布がオススメ

 

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