薬剤がかかりにくい場所に潜む「ホウレンソウケナガコナダニ」を効率的に防除するには
土壌中やほうれんそうの新芽付近に潜み、茎葉散布の殺虫剤がかかりにくいことから、防除が難しい土壌害虫「ホウレンソウケナガコナダニ」。防除の重要性と実際の防除対策について、秋田県農業試験場生産環境部病害虫担当主任研究員(現秋田県山本地域振興局農林部)の菊池英樹さんにお話を伺いました。
【秋田県農業試験場 生産環境部 病害虫担当 主任研究員(現 秋田県山本地域振興局農林部) 菊池英樹さん】
秋田県のほうれんそうの生産状況ついて教えてください。
近年は、夏期の異常な高温の影響で、ホウレンソウ萎凋病が発生しやすい状況にあります。このため、夏期のほうれんそう栽培をやめて、チンゲンサイ、こまつな、しゅんぎくなどにシフトする生産者が増えています。県内全体の面積は維持されていますが、生産者戸数は年々減少傾向にあるようです。
ほうれんそうでは、どのような害虫が問題になっていますか
近年問題になっているのは、シロオビノメイガです。また、ネギアザミウマもここ最近、発生が増えている害虫ですね。また、土壌害虫ではホウレンソウケナガコナダニが20年ほど前から、全国的な問題となってきました。
【ホウレンソウケナガコナダニ(成虫)】
ホウレンソウケナガコナダニの被害や防除の重要性についてはいかがでしょうか。
秋田では、ほうれんそうを周年で栽培する生産者よりも、トマトやきゅうりといった果菜類の後作で、ほうれんそうをつくる生産者が多いので、9月に播種をして12~1月に収穫するといった冬場の栽培が多くなっています。
ホウレンソウケナガコナダニは、極端な暑さや寒さを嫌うので3~6月、10~12月の被害が多くなっています。
ほうれんそうの生長点付近で増殖し、主に2~6葉期の新葉を吸汁加害するので、展開葉はこぶ状の突起が生じて変形や奇形になります。
被害が軽微であればB品で出荷可能ですが、葉の穴や変形が生じた場合は出荷できず、収量減となるので多発圃場では防除が重要と言えるでしょう。
【ホウレンソウケナガコナダニが葉裏に寄生する様子】
どのような環境下で発生しやすいのでしょうか。
連作圃場での発生が多いのはよく知られていますが、カビ・コケ類・酵母などを好むため、未熟な堆肥を投入した圃場では発生が増える傾向にあるようです。また、ホウレンソウケナガコナダニは、乾燥状態を避け多湿状態を好みます。
通常、ほうれんそうの場合、播種時に灌水したあとは、棚持ちが悪くなるのを防ぐため生育期後半にほとんど灌水をしないケースが大半ですが、生育期に多量に灌水をする場合には注意が必要です。生産現場によっては、前日に軽く灌水しておき、地表近くに上がってきたホウレンソウケナガコナダニを防除すると効果が高まるという事例も報告されています。
【ホウレンソウケナガコナダニによる被害】
土壌処理剤にはフォース粒剤を推奨されていると伺いました。
秋田県ではフォース粒剤の播種前処理後、2~4葉期に茎葉散布(フォース粒剤とは系統の異なる散布剤)を2回程度実施する体系防除を推奨しています。ホウレンソウケナガコナダニは新芽付近に潜んでいることから、生育期の茎葉散布剤がかかりにくいので、播種前の土壌処理が有効です。
数年前までは、効果の高い土壌処理剤がなく、現場も苦慮していたのですが、フォース粒剤がほうれんそうの「ホウレンソウケナガコナダニ」に登録を取得してからは、播種前のフォース粒剤による土壌処理がスタンダードになりました。
フォース粒剤は、土壌処理した処理層の周辺にいるホウレンソウケナガコナダニの密度を下げ、生育期に近寄ってくる密度を減らしてくれるので、生育期の茎葉散布剤(フォース粒剤とは系統の異なる散布剤)と組み合わせて効率的に防除することができます。
【フォース粒剤のホウレンソウケナガコナガダニに対する防除効果】
害虫の発生状況:小発生(放虫)
品種 | サンホープセブン |
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播種 | 9月8日 |
処理日 | 9月8日(播種直前) |
処理方法 | 各種薬剤を全面土壌混和 |
調査方法 | 収穫時(10月14日)に各区100株を採取。被害葉を被害程度別に調査し、被害度を算出。 |
ほうれんそう生産者の方に上手な防除のアドバイスをお願いいたします。
まず、未熟な堆肥を施用しない、植物残渣処理の徹底、太陽熱による土壌消毒など耕種的防除により、密度を増やさない環境づくりが大切です。そして播種前のフォース粒剤と、生育期の茎葉散布剤を組み合わせた防除体系で、しっかり防除するようにしましょう。
これからも、生産現場の労力やコストの低減につながるような防除の研究を重ね、皆さんにご提案していきたいですね。
※掲載したホウレンソウケナガコナダニの主要な写真に関しましては、秋田県農業試験場にご提供いただきました。