アカネ科雑草 ヘクソカズラの生態

病害虫・雑草コラム

ヘクソカズラはつる性の多年草で、よく見られる雑草です。春から夏にかけ成長し、夏には長さ1cmほどの花を咲かせます。ヘクソカズラの生態と、それを上手く利用するアブラムシのお話をご紹介します。

ヘクソカズラはつる性の多年草


ヘクソカズラはつる性の多年草で、日当たりのよい藪や草地、また生け垣やフェンスなどに普通に見られる雑草です。春から夏にかけ茎を伸ばし葉を広げ、夏には長さ1cmほどの筒状の花を咲かせます(写真1)。筒の先端は浅く5つに分かれており、中央は紅紫色をしています(写真2)。

【写真1 ヘクソカズラの茎葉と花】

ヘクソカズラの茎葉と花

【写真2 ヘクソカズラの花】

ヘクソカズラの花

小説「植物図鑑」(有川浩 著 幻冬舎文庫刊)でヘクソカズラの花は、「中心が上品なえんじでふわりと染まった、フリルのようなカッティングの入ったベル形の小花。」と形容されています。

「植物図鑑」には、シロツメクサ、イタドリ、[スベリヒユ]、シロザなど多くの雑草が登場します。そのなかでヘクソカズラは主役の座にあり、その和名は小説中に23回も登場します。主人公のさやかは「そいつ一番キライなの!フェンスに絡むからちょっと伸びても取るのが大変だし手がすごく臭くなるんだもん」と、歩く植物図鑑のような男・イツキに叫びます。ヘクソカズラを介して、さやかとイツキは、互いを想う気持ちを見つめ深めていきます。

さて、「すごく臭くなる」のには、ヘクソカズラの葉に含まれるペデロシド(Paederoside)という物質が関わっています。ヘクソカズラの葉がちぎられるとペデロシドが分解され、メルカプタンという臭い物質が発生するのです。

ヘクソカズラを利用するアブラムシ


このペデロシドをうまく利用するアブラムシがいます。その名はヘクソカズラヒゲナガアブラムシ(写真4)。このアブラムシはヘクソカズラを吸汁して体内にペデロシドを蓄積することで、テントウムシ(ナミテントウ)に食べられないよう身を守っています。絶食させたテントウムシにヘクソカズラヒゲナガアブラムシを与えると、・・・。テントウムシはかじった即座にアブラムシを口から離し、唾を吐き出し、急いで逃げる、のだそうです。

【写真4 ヘクソカズラヒゲナガアブラムシ】

ヘクソカズラヒゲナガアブラムシ

【写真5 ヘクソカズラの果実 枯れた茎葉に果実がついている。】

ヘクソカズラの果実 枯れた茎葉に果実がついている

ヘクソカズラは、むしり取られながらも恋愛にひと役買い、吸い取られてはアブラムシの防御に貢献しています。

【引用・参考図書等】
有川浩、『植物図鑑』、幻冬舎文庫(2013)。

NISHIDA, R. and FUKAMI, H. (1989). Host plant iridoid-based chemical defense of an aphid, Acyrthosiphon nipponicus, against ladybird beetles. Journal of Chemical Ecology 15:1837-1845.

露﨑 浩
秋田県立大学生物資源科学部教授として、雑草の生態と制御および利用に関する研究
ならびに畑作物の安定・多収生産技術に関する研究に取り組んでいる。