スベリヒユ科雑草 スベリヒユ-人の生活との関わり

病害虫・雑草コラム

スベリヒユ(スベリヒユ科)は鮮やかな黄色の花をつける夏の畑雑草です。スベリヒユは畑の雑草ですが、食文化や風習として私たちの生活を彩ってきました。人が歴史のなかで雑草とどのように関わってきたかをご紹介します。

夏の畑雑草スベリヒユ


スベリヒユ(スベリヒユ科)は、赤紫の丸い茎と肉厚の葉を持ち、鮮やかな黄色の花をつける夏の畑雑草です(写真1,2)。茎からぬめりが出ることが名前の由来とされています。

このスベリヒユ、引き抜いて畑に放置してもなかなか枯れず「生命力が強い」ことから、「土用の丑の日に摘んで軒先につるすと夏負けしない」とする風習が、かつて山形県にあったようです。

【写真1:畑に生えるスベリヒユ】

畑に生えるスベリヒユ

【写真2:開花したスベリヒユ】

開花したスベリヒユ

山形県置賜地域では、スベリヒユを「ひょう」と呼び、湯引きし辛子醤油で食べたり、乾燥・保存した「ひょう干し」を正月の行事食としています。「ひょう干し」を湯で戻し、ごま和えなどの家々で伝わる調理をし、元旦の朝食で「ひょっとしてよいことがあるように」あるいは「無病を願って」などと願を掛けながら食べるのだそうです。

『かてもの』として親しまれたスベリヒユ


【スベリヒユのおひたし】

スベリヒユのおひたし

スベリヒユを含む79種の植物の調理法・食べ方を著した救荒書が、米澤藩により刊行された『かてもの』です。“かてもの”とは、米や麦に混ぜ加える食物の意味です。『かてもの』のスベリヒユの項では、「ゆびき食ふ又かて物とす 但わらび粉と食あはせへからす」と記されています。『かてもの』は、米澤藩9代藩主の上杉治憲(鷹山)公の命をうけ1802年に刊行、農民などに配布されました。農民らはこの書により凶作に備えたため、天保の飢饉の折りに多いに役立った、と語り継がれているそうです。

さて、時は平成、山形県庄内地域の中学校では受験期になると給食にスベリヒユの料理が出されるとのこと、スベリヒユの別名「すべらん草」に願を掛けるのだそうです(山形県飽海郡にて筆者聞き取り)。
スベリヒユは畑の雑草であるとともに、時に救荒植物として人々の命を救い、時に願を掛ける植物として私たちの生活を豊かなものとしています。
人が歴史のなかで雑草と多様な関わりを持ちながら生きてきたことを、スベリヒユは語っています。

【引用・参考図書等】

  • 髙垣順子、改訂米澤藩刊行の救荒書『かてもの』をたずねる-「かて物」・「か手物」そして「かてもの」-(第二刷 改訂)、歴史春秋社(2010年)
  • かてもの〈復刻本・読下し本〉、タカノ印刷有限会社(1974年)
  • 米沢市上杉博物館展示物(2009年2月閲覧)

露﨑 浩
秋田県立大学生物資源科学部教授として、雑草の生態と制御および利用に関する研究ならびに
畑作物の安定・多収生産技術に関する研究に取り組んでいる。