野菜の「殺虫剤抵抗性管理」-殺虫剤抵抗性が発達するメカニズム
同系統殺菌剤の連用による「耐性菌」と同じように、殺虫剤についても同様の現象が発生します。「よく効くから」といって同じ系統の殺虫剤ばかり連用していると、殺虫剤抵抗性が発達した害虫が増殖することにつながります。ここでは野菜の殺虫剤抵抗性管理についてご紹介します。
化学農薬は、害虫防除の中心的存在
害虫が野菜に及ぼす加害の仕方は、葉や果実を食べる「食害」、葉や果実を吸汁する「吸汁害」、ウイルスを保毒した害虫の吸汁などによりウイルス病の感染を媒介する「ウイルス病媒介」の3つに大別することができます。加害する部位は害虫により異なり、例えばハスモンヨトウやオオタバコガは葉や果実を、フキノメイガは茎を、コガネムシ類の幼虫は根を食害。アブラムシ類やコナジラミ類は葉を、ミナミキイロアザミウマは果実、ホコリダニ類は芽を吸汁します。
ウイルス病媒介では、シルバーリーフコナジラミが媒介するトマト黄化葉巻病、ミナミキイロアザミウマが媒介するきゅうり黄化えそ病などがあります。こうした多様な野菜の害虫を上手に防除するための手段として、中心的な役割を果たすのが殺虫剤などの化学農薬を用いた「化学的防除」です。しかし、同一系統の殺虫剤にばかり頼っていると、殺虫剤抵抗性が発達し、害虫の多発生につながってしまうので気をつけなければなりません。
【葉や果実を加害するハスモンヨトウ】
【主に葉を加害するワタアブラムシ】
【主に果実を食害するミナミキイロアザミウマ】
【ウイルス病を媒介するシルバーリーフコナジラミ】
殺虫剤抵抗性発達のメカニズムとは!?
害虫には、もともと殺虫剤が効きにくい虫がわずかに存在します。そこに、同じ系統の殺虫剤を連用すると、世代交代のたびに抵抗性をもつ虫が選抜されて増えていき、やがてはまったくその系統の殺虫剤が効かなくなってしまいます。
薬剤の「系統」とは、前回の「はじめよう野菜の耐性菌管理」の中でもご説明しましたが、有効成分を化学的に分けるグループのことで、例えば殺虫剤では、「有機リン系、合成ピレスロイド系、IGR系、ネオニコチノイド系」などがあり、製品名が違っても系統が同じという場合が、数多くあります。
【殺虫剤抵抗性が発達するメカニズム】
【殺虫剤の主な系統】
害虫の異常多発生にも注意が必要!
殺虫剤抵抗性の発達以外に、害虫が多発生する原因のひとつとして「天敵の死滅」があります。害虫には、その害虫を捕食する捕食性天敵や、害虫に卵を産みつけてふ化、幼虫がその害虫を食べて育つ寄生性天敵が存在します。
キャベツを例にとると、コナガの天敵「キボシアオゴミムシやオオアトボシアオゴミムシ」、アオムシの天敵「アオムシコマユバチ」、アブラムシ類の天敵「ナミテントウ、ギフアブラバチ」、チョウ目全般の天敵「フタモンアシナガバチ、ウヅキコモリグモ」などの存在です。この天敵が存在しているおかげで、害虫と天敵のバランスが取れているわけですが、天敵に影響のある殺虫剤を使用していると、天敵が死滅し、その天敵に捕食・寄生されていた害虫だけが増え続けることになり、その結果、害虫の密度が急上昇して異常多発生(リサージェンス)してしまうことがあります。
【キャベツの害虫の主な天敵】
【リサージェンスのメカニズム】
出典:シンジェンタジャパン(株)発行「漫画で知ろう『殺虫剤抵抗性管理』」「野菜殺虫剤の上手な使い方」