殺虫剤の効果的な散布方法-野菜殺虫剤の上手な使い方-

病害虫・雑草コラム

野菜類の害虫による加害は、作物の品質と収量に大きな影響を及ぼします。 その対策として、重要な手段となるのが殺虫剤による防除ですが、 誤った使い方ではその効果が充分に発揮されないことがあります。殺虫剤の効果的な散布方法をご紹介します。

薬剤防除の成否を決める3つの要因


殺虫剤散布で害虫を防除する場合には、その成否を決める要因は大きく3つあります。

対象害虫の生活環境や生態の理解

1つ目は「敵」である対象害虫の生活環境や生態を理解すること。ほ場への侵入方法や侵入時期、ほ場内で増加する時期、成育ステージごとの生息場所など、散布時に狙う場所を特定するために不可欠な情報をしっかり把握しておくことが大切です。相手がどこに潜んでいるかわからないのにやみくもに散布しても効果は期待できません。

散布した薬液の付着程度が充分か?

2つ目が、散布した薬液の付着程度が充分かどうかという点です。殺虫剤の多くは、充分な薬液付着量がないと効果を発揮できません。しかし、最近の殺虫剤は非常に低薬量でもある程度の効果は得られます。このため、付着量が少なくても見かけ上、防除できたように思われがちです。充分に散布したつもりでも、付着していない部分が存在すると充分に効果があがりません。

殺虫剤の効果確認

3つ目は、使用する殺虫剤の効果確認です。害虫の生息場所がわかって、散布しても、使う殺虫剤が効かないのでは防除は成功しません。害虫に殺虫剤抵抗性が発達している場合などもあります。しかし、生産者自身で効果を確認するのも難しいものです。効果があがっているかどうか、最寄りの病害防除所や普及指導員、営農指導員などに相談しながら、使用するといいでしょう。

【殺虫剤散布の成否を構成する要因】

殺虫剤散布の成否を構成する要因

一番難しいのが「己」を知ること


3つの要因のうち、一番把握しにくいのが散布時の薬液付着程度を確認すること、つまり「己」を知ることです。薬剤散布作業の後に、わざわざ濡れた葉をひっくり返して付着を確認する人はほとんどいないでしょう。そもそも、濡れ加減は、非常にわかりにくいものです。そこで利用したいのが感水試験紙です。黄色の試験紙が、水滴が付着することで青色に変色することで、葉裏の濡れ加減が確認でき、これを利用すれば一目で薬液の付着程度を把握することができます。

現状が把握できると、自分の散布ではどこの部分に付着が少ないかがわかりますので、今度は自分の散布動作を第三者にチェックしてもらうといいでしょう。自分では気がつかなかった散布動作の癖が見えてきます。多くの生産者は、薬剤散布作業を独学で習得していることでしょう。これでは「散布動作そのものはなめらかだが合理的な動作かどうかはわからない」という状態です。第三者の目で気づいた点などを指摘してもらうと、動作の癖などに気づくことができます。実際に、第三者の指摘前後での薬剤付着程度の変化を比較すると、指摘後は付着程度が著しく向上したというデータもあります。

【感水紙付着指標第三者からの指摘前後の薬液付着程度の変化】

感水紙付着指標第三者からの指摘前後の薬液付着程度の変化

【第三者からの指摘前後の薬液付着程度の変化】

第三者からの指摘前後の薬液付着程度の変化

日頃の散布作業を改善するチェックポイント


他に普段の散布作業でどんな点に気をつけたらいいかのチェックポイントをまとめました。

●毎回同じ経路で散布していないか?
・付着ムラがある可能性があるため、経路を逆にするなどの変化を加えましょう。

●作業を短時間で終わらせるために、散布圧を高くしていないか?
・対象害虫や作物の形状に応じて適当な散布圧にしましょう。果樹のカメムシなどを狙う場合には高圧で葉の間を貫通させるような散布も必要ですが、葉裏に寄生するハダニやコナジラミ類を対象とするなら、散布圧を抑えて、ゆっくり散布するようにこころがけます。

●支柱などの資材をほ場に放置したままになっていないか?
・散布竿の動きやホース曳きの支障になるような場合は、すぐに片付けましょう。

●施設奥にまで畝を作っていないか?
・施設の妻面ぎりぎりまで栽培畝を設けると、散布竿の取り回しがしにくくなります。付着ムラが生じている可能性があるので、隅々までチェックするようにしましょう。

これまで殺虫剤がよく効いていたのは、実は非常に低濃度でも効果を発揮する殺虫剤の能力の高さに頼っていただけなのかもしれません。殺虫剤が持っている力を100%発揮できる条件を整えることを心がけていきましょう。それが、殺虫剤の寿命を長くし、効果的な殺虫剤使用につながっていきます。