水田雑草「イヌホタルイ」の繁殖の条件と除草剤抵抗性について
ホタルイ属の植物のなかで、全国的に最も普通にみられる雑草が「イヌホタルイ」です。水田のなかで密生すると稲に必要な養分を吸い取ってしまい、稲の生育が悪くなり収量が減ることも。種子は、条件が良いと10〜20年の寿命があると言われる一方、特定の除草剤成分に対して抵抗力を持つ「除草剤抵抗性」を持つ場合もあります。今回はイヌホタルイの防除において知っておきたいポイントをご紹介します。
イヌホタルイ-全国的に最も普通にみられる水田雑草
カヤツリグサ科のホタルイ(Scirpus )属の植物のなかで、「ホタルイ」と呼ばれている水田雑草には、ホタルイ(Scirpus juncoides Roxb. var. hotarui Ohwi)、イヌホタルイ(Scirpus juncoides Roxb. var. ohwianus T. Koyama)、タイワンヤマイ(Scirpus wallichii Nees)、コホタルイ(Scirpus smithii A. Gray subsp. leiocarpus ) などがあります。このなかで、全国的に最も普通にみられる雑草がイヌホタルイです。
タイワンヤマイやコホタルイは東北、北海道など一部の地域では多く発生していますが、全国的ではありません。ホタルイは溝や湿地に発生しますが、現在は水田のなかではほとんどみられず湿った休耕田にまれに確認されるくらいです。なお、ホタルイは漢字では「蛍藺」と書くように、ホタルの住むようなところに生える藺(イ)からきた名前のようです。
【イヌホタルイの幼植物】
水田のように水や泥の中のような場所でよく発芽
イヌホタルイの繁殖は、株の基部の越冬芽という繁殖器官による場合もあることから多くの雑草図鑑や、除草剤ラベルなどの適用雑草欄においても「多年生」として分類されていますが、実際の水田のなかでは種子によって増える「一年生」としてみられるものがほとんどです。
種子には休眠性があり、秋にできた種子を採ってきて播いてもすぐには発芽しません。自然の状態では秋から春にかけて低温にあい雨や雪などの水分にさらされることで、次の年の田植え前には目が覚め始め、発芽の準備が整います。イヌホタルイの種子は、酸素が少ないほど発芽しやすく畑よりも水田のように水や泥の中のような場所でよく発芽します。
発芽の適温は30℃前後ですが15℃くらいでも発芽可能で、田植えした後には数日で芽が出てきます。水田では土から芽 が出てきたイヌホタルイの種子の深さは、地面から1cmくらいまでがほとんどで、深いところにある種子の多くは発芽せず休眠しています。また、いったん休眠から覚めた種子でも、条件が悪くなるとまた休眠に入ってしまうことがあります(二次休眠)。
【開花期のイヌホタルイ】
完全になくすには相当な年月がかかる
種子から白っぽく弱々しい初生葉が出た後、平たくて細長い本葉が4〜6枚出ます。その後に花をつける花茎が伸びてきます。イヌホタルイは同じホタルイ属のコウキヤガラのような匍匐する茎は持たず、単立した株を作ります。
芽が出てからは30〜50日で穂ができ、花が咲きます。種子は、条件が良いと10〜20年の寿命があると言われています。従って、一度多くの種子が水田に落ちるとその後は毎年生えている草を取り続けたとしても、完全になくすには相当な年月がかかることになります。
水田のなかで密生すると収量が減ることも
イヌホタルイの草丈は20〜60cmぐらいで、ノビエのように稲よりも大きくはなりませんが、水田のなかで密生すると稲に必要な養分を吸い取ってしまい、稲の生育が悪くなり収量が減ることがあります。イヌホタルイが非常に密に発生した場合には通常の半分程度しか米がとれなくなってしまうこともあります。
【イヌホタルイの群生した水田】
特定の除草剤成分に対して抵抗力を持つ「除草剤抵抗性雑草」
最近の除草剤は多くの種類の雑草に効果がある性能の高いものがほとんどで、しかも一回の散布ですむものが多くなっています。ですから除草剤のラベルの適用雑草欄に「ホタルイ」と書いてあれば、まずどんな薬を使ってもあとで困ることはありませんでした。しかし、最近同じ除草剤を長年使い続けてきた水田で、除草剤がちゃんと効くはずの条件でも、特定の雑草が異常に多く残ってしまうという現象が各地で確認されるようになりました。残った雑草は、特定の除草剤成分に対して抵抗力を持つ「除草剤抵抗性雑草」というものです。
抵抗性のイヌホタルイに効果のある除草剤を
除草剤抵抗性のイヌホタルイが増えてきたら今まで使い続けてきた除草剤では効果が期待できないので、きちんと防除するには抵抗性のイヌホタルイに効果のある成分が入った除草剤を使う必要があります。しかし、抵抗性のイヌホタルイと抵抗性でないものとは見た目では全く区別がつかないので、疑わしいと思ったら抵抗性かどうかの判断とその対策について都道府県の指導機関(農業試験場など)に相談しましょう。
財団法人 日本植物調節剤研究協会
技術部長 土田 邦夫