さつまいもの害虫と天敵の働き
さつまいもに加害する害虫として、日本本土ではコガネムシ類やハスモンヨトウ、ナカジロシタバ、エビガラスズメなどがあります。これら重要害虫の生態と、その天敵であるアリの働きについて詳しく解説していきます。
南西諸島の特殊病害虫:防除方法について
鹿児島、沖縄両県に広がる南西諸島と東京都の小笠原諸島には、外国から侵入したアリモドキゾウムシが生息しています。これらの地域では、ゾウムシの被害拡大を防ぐため、さつまいもを日本本土へ出荷できません。
鹿児島、沖縄両県では、現在、不妊虫放飼法を用いてゾウムシの根絶に取り組んでいます。この防除方法は、ゾウムシにコバルト60の放射線をあてて不妊化し、それを野外に大量に放飼するというものです。まさに、虫を放して虫を滅ぼすのです。近年、被害イモの持ち込みによると思われる発生が、高知県や鹿児島県で確認されています。
【アリモドキゾウムシの成虫】
日本本土の害虫:作物への加害と生態について
日本本土では、塊根部を食べるコガネムシ類や、茎葉を餌とするハスモンヨトウ、ナカジロシタバ、エビガラスズメなどが重要な害虫になっています。コガネムシ類の幼虫はいもの表面を食害して、くねくねした運河のような幅広い溝を残すため商品価値を低下させます。ナカジロシタバは、さつまいもの葉だけを食べる特殊な害虫で、いものない冬場は圃場内の土中で蛹になって冬を越します。
4〜5月に羽化し、8月下旬〜9月中旬に高密度になります。若齢幼虫は未展開の葉を食べるため、葉が開いたときに左右対称の食痕が残るのが特徴です。老齢になると摂食量が急増し、無防除のままでは茎葉が丸裸の状態になります。ハスモンヨトウは卵をかたまりとして産むため、ふ化幼虫が集団で葉を食害します。その結果、葉は葉脈だけが残り、全体が白っぽく見えます(白化現象)。しかし、南九州では白化現象はあまり見かけません。これには以下で紹介するアリなどの天敵が関与していると考えられています。
【ナカジロシタバ若齢幼虫による未展開葉の被害】
【ナカジロシタバの老齢幼虫】
【ハスモンヨトウの老齢幼虫とハヤシクロヤマアリ】
天敵としてのアリ
さつまいも圃場では、アリをはじめとした多くの天敵が活躍しています。例えば、アリは、ハスモンヨトウ、ナカジロシタバなどの卵や幼虫を食べます。実際、地表に薬剤を散布して、アリなどの地表性の天敵を殺すと、被害が大きくなります。さらに、クモやカメムシの仲間もふ化幼虫を餌にします。一方、土の中ではアリがコガネムシの幼虫を攻撃します。さつまいも圃場は、茎葉が繁っているため、天敵にとって住み良い環境なのでしょう。
【アリに捕食され頭蓋(頭部の殻)だけが残ったコガネムシ1齢幼虫】
アリとさつまいもの共生関係
なぜアリが重要な天敵として働いているのか。それには訳があります。さつまいもは葉のつけね(花外蜜腺)から甘い蜜を出して、アリをボディーガードとして雇っているからです。アリは蜜をもらう代わりに葉っぱをパトロールして、害虫を食べてくれます。圃場内外にアリが住めるような環境を整えてやると、さつまいもはこの天授の防衛戦略で害虫の攻撃から身を守るのかもしれません。
【花外蜜腺で蜜を吸うハヤシクロヤマアリ】
鹿児島県大島支庁農林課
末永 博
シンジェンタジャパンの防除薬剤
シンジェンタジャパンでは「かんしょ」に対する薬剤として、「コガネムシ類」にアクタラ粒剤5やフォース粒剤、「ハスモンヨトウ」などの鱗翅目害虫にアファーム乳剤やマッチ乳剤などが使用できます。適用の内容など、それぞれの詳細については製品ページをご覧下さい。