JA独自のPR戦略で、丹波篠山の黒大豆を全国的なブランドに。江戸時代から続く黒大豆栽培が、日本農業遺産にも認定。

体験レポート
JA独自のPR戦略で、丹波篠山の黒大豆を全国的なブランドに

江戸時代より300年の歴史を誇る丹波篠山の黒大豆。JA丹波ささやま管内には、丹波の森と呼ばれる豊かな自然と篠山盆地が広がり、篠山城跡や城下町など日本の原風景とも言うべき環境に囲まれています。『日本農業遺産』にも認定された「丹波篠山黒豆・黒枝豆」栽培について、JA丹波ささやま 営農部営農指導課の寺本吉彦課長と平野健太係長にお話を伺いました。

大粒で豊かな甘みが特徴の「丹波篠山黒豆・黒枝豆」


江戸中期から栽培が継承され、昭和後期から生産量が急増したことで、今や全国的な産地ブランドとして名高い「丹波篠山黒豆・黒枝豆」。篠山盆地の水田地帯で乾田高畝栽培されるこの黒大豆は、粒が大きく、豊かな甘みと食感で新年のおせち料理などに重宝されています。その品質の高さを生む理由や背景について、寺本課長はこうおっしゃいます。

「当JA管内の産地は周囲を山々に囲まれた篠山盆地で、夏秋季の昼夜の寒暖差が大きく、それが黒大豆の糖度向上など農作物全般への好影響をもたらしています。この気温差が生む霧に包まれた風景は、“丹波の霧海”と呼ばれており、産地を象徴する幻想的な風景と言えるでしょう。こうした恵まれた気候風土に加え、清らかな水、肥沃な土壌といった丹波篠山の自然と匠の農業技術が、最高級の黒大豆を生んでいます」。

 

【昼夜の寒暖差が「丹波の霧海」を生む】

昼夜の寒暖差が「丹波の霧海」を生む

 

何世代にもわたり継承されてきた丹波篠山の黒大豆栽培が『日本農業遺産』に


同JAの黒大豆(黒豆・黒枝豆)栽培面積は約800haと全国トップ。他産地の黒大豆よりも大粒であることが最大の特徴なのだと言います。その特徴の秘密は地域の優良な在来種子にありました。

「丹波篠山の黒大豆は、“川北(かわきた)系統”“波部黒(はべぐろ)系統”“兵系黒(ひょうけいぐろ)3号”という丹波黒種であり、江戸時代から優良な在来種子を選抜・育種しながら、何世代にもわたり、引き継がれてきたものです。他産地の黒大豆よりも粒がひと回りからふた回りほど大きく、その煮豆は甘味のある独特な風味を備えています」と寺本課長。

2021年2月には、『何世代にもわたり継承されてきた独自性のある農業で、育まれた文化、農村景観、農業生物多様性が一体となった農業システムである』として、丹波篠山の黒大豆栽培が『日本農業遺産』にも認定されたのだそうです。

 

【煮豆に最適な「丹波篠山黒豆」】

煮豆に最適な「丹波篠山黒豆」

 

気温上昇による生育の変化が産地の課題に


以前は水田の漏水対策として畦で栽培されていた黒大豆が、1960年代の後半から水稲の生産調整により栽培面積が増えて行き、いまでは全国一の面積に。そんな黒大豆の大産地丹波篠山でも、近年の課題は“高温障害”なのだそうです。

「地球温暖化などの影響で栽培期間中の最高気温・最低気温が底上げされ、実がつかないなどの高温障害が発生しやすくなってきました。また、水稲との輪作で黒大豆をつくっていても、長年の繰り返しによる連作障害もあります。以前と同じ作り方をしていては、そうした問題を解消できないので、地域が一体となってその対策を検討しているところです」。

そう話す寺本課長と平野係長の表情から、産地の課題がひしひしと伝わってきました。

 

【西丹波の山々に囲まれた篠山盆地の黒大豆圃場】

西丹波の山々に囲まれた篠山盆地の黒大豆圃場

 

 

周囲の反対を押し切りJA独自の特産館を開設


全国の消費者に、丹波篠山の黒大豆を知ってもらいたい──そんな目標を掲げて、同JAがブランド構築をスタートしたのが、日本にインターネットが普及する以前の1984年ごろのこと。黒大豆ブランドが全国的に成長していくきっかけをつくったのは、当時の同JA組合長が発した鶴の一声でした。

「単発で終わってしまうTVCMや新聞広告ではなく、メディアの方から丹波篠山の黒大豆を積極的に取り上げてくれるような“話題性”をつくるにはどうすればいいか、という視点で施策を考えました。先見の明を持っていた当時の組合長が、『これからの時代、JA独自で直営店をつくって、自ら黒大豆の情報を発信していこう』と発案したんです。経営的リスクや周囲への影響がある計画なので、JA内部や地域の商工会の反対もあったのですが、それを押し切って決断し、1986年に特産品の直売所やレストランを併設した“特産館ささやま”を竣工しました」。

 

【“特産館ささやま” 産直品販売、黒大豆を使用した料理などを提供するレストランを併設】

“特産館ささやま” 産直品販売、黒大豆を使用した料理などを提供するレストランを併設

 

“特産館ささやま”が、黒大豆のブランド化への起爆剤に


直売所では煮豆、菓子類等の黒大豆加工品をはじめ、くり、やまのいも、小豆、茶、牛肉・猪肉などの産直品を販売し、レストランでは著名料理研究家が考案した黒大豆を食材とする料理を提供。JAが単独でこのような施設をつくる時代でなかった中、当時の組合長の予想が見事に的中し、大変な評判を呼んだのだそうです。

「毎日のように新聞社やTV局が特産館ささやまや黒大豆の取材に来られました。もともと丹波篠山は、篠山城跡など歴史的な景勝を残す観光地であり、最初は地元の商工会も、お客様を取られるのではないか?と大反対でした。しかし、ふたを開けてみると、特産館ささやまを目当てに訪れる観光客が増えて、地元の土産物店など特産館以外の商店も潤い、地域全体の経済が活気づいたんです」と寺本課長は、当時の経緯とその効果について教えてくださいました。

 

【煮豆に最適な「丹波篠山黒豆」、丹波篠山黒豆のパウダーを練り込んだ県内女子大学とのコラボ商品「ハートフル黒豆クリームサンド」(右)】

煮豆に最適な「丹波篠山黒豆」、丹波篠山黒豆のパウダーを練り込んだ県内女子大学とのコラボ商品「ハートフル黒豆クリームサンド」(右)

 

【風光明媚な篠山城跡と桜】

風光明媚な篠山城跡と桜

 


試食という地道な活動で知名度を高めていった「丹波篠山黒枝豆」


煮豆などに使われる「丹波篠山黒豆」よりも少し遅れて、そのブランド名が一般に広まったのが「丹波篠山黒枝豆」でした。黒大豆の未熟な莢を収穫する黒枝豆ですが、粒の大きさはさることながら、丹波黒種の黒枝豆の深い甘味とコクがある美味しさがあります。その美味しさを知ってもらうため、市場・卸先の方々にに試食してもらう活動をつづけ、徐々に知名度を上げていったのだそうです。現在では、ブランド確立以前より大きく拡大した、と寺本課長はおっしゃいます。

「人気グルメ漫画に取り上げられたこともあり、丹波黒種の黒枝豆の美味しさが一般に広く知られるようになってきました。当JAでは、毎年10月5日を「丹波篠山黒枝豆」販売の解禁日としており、10月23日ごろまでの短い期間ではありますが、秋の味覚として確立されるようになったんです」。

 

【期間限定の「丹波篠山黒枝豆」】

期間限定の「丹波篠山黒枝豆」

 

特に発病リスクが高い梅雨後と台風時期の茎疫病防除に、レーバスフロアブルを採用


丹波篠山の黒大豆は6月中下旬に播種を行い、黒枝豆は10月上中旬、黒豆は11月下旬~12月上旬に収穫。一般的なだいずと比較して栽培期間が1ヵ月ほど長いことが特徴のひとつだそうです。また、「7月上中旬と7月中下旬の2回、ていねいに中耕培土を行うなど、手作業でしっかりとした管理作業を行っています」と平野係長。

近年の問題病害虫は、アブラムシ類や茎疫病なのだとか。特に茎疫病は発病すると葉が枯死し、莢がつかないことから対策を重要視しているのだそうです。その防除対策として同JAでは、2022年からレーバスフロアブルを防除暦に採用されました。

「茎疫病は土壌伝染する病害で、いつ感染・発病するのか分からないので防除が難しく、予防防除を基本とした定期的な防除が必要です。この病害は降雨や冠水状態といった多湿条件で広がりやすいので、梅雨後や台風時期は特に発病リスクが高い。当JAでは、ローテーション防除の中で、レーバスフロアブルを梅雨後の7月下旬と台風時期の8月下旬に散布するよう指導しています。レーバスフロアブルは、予防効果が高いので、この重要な時期の散布で採用しました」と平野係長はおっしゃいます。

 

【黒大豆の花(左)と黒大豆圃場(右)】

黒大豆の花(左)と黒大豆圃場(右)

 

 

適正な処理方法を周知し、セルトレイ育苗でもクルーザーMAXXの指導をスタート


「アブラムシ類・ネキリムシ類や茎疫病などの防除対策として、10年ほど前からクルーザーMAXXを黒大豆の防除暦(直播栽培)に採用しています。クルーザーMAXXは多湿条件下の場合でも、根張りがよくなって初期生育が旺盛になるので重宝しますね」。

そんなクルーザーMAXXも、セルトレイ育苗栽培で薬害が発生するケースが報告されたことから、セルトレイ育苗の場合は使用を避けるよう指導されてきたのだと平野係長はおっしゃいます。しかし、平野係長は、セルトレイ育苗でクルーザーMAXXの現地圃場試験を毎年重ね、生産者側での使用方法に問題があることを突き止めました。

「当JAで試験した圃場では全く問題がなかったので、薬害が報告された生産者の使い方をヒアリングした結果、薬剤を正しく計量していなかったり、塗抹処理のやり方や乾燥時間が規定通りではなかったことが分かりました。そこで、昨年2022年からは、正しい処理の仕方をあらためて周知することで、セルトレイ育苗でもクルーザーMAXXを指導するようになりました」。

 

【レーバスフロアブル・クルーザーMAXXを使った黒豆に対する防除スケジュール】

レーバスフロアブル・クルーザーMAXXを使った黒豆に対する防除スケジュール

 

 

土づくりを軸に、反収の向上を目指す


10年ほど前までは平均反収が150~180kgあったという同JA管内の黒大豆。近年では高温障害や地力の低下などによって平均反収100~120kgに低下してしまったとおっしゃいます。

「土づくりをしっかりと行うことで、以前の反収を復活させ、安定生産をめざします」と寺本課長、平野係長。『日本農業遺産』認定をバネに、丹波篠山ブランドがますます発展していくことを願ってやみません。

 

【「島立て」と呼ばれる黒大豆の収穫風景】

「島立て」と呼ばれる黒大豆の収穫風景

 

JA丹波ささやま 営農経済部営農指導課の寺本吉彦課長(右)と平野健太係長(左)

 

 

 

 

 

 

 

JA丹波ささやま 営農部営農指導課の寺本吉彦課長(右)と平野健太係長(左)
同JA管内では、「丹波篠山黒豆・黒枝豆」のほか、「丹波篠山 山の芋」「丹波篠山コシヒカリ」「丹波篠山牛」「丹波栗」「丹波篠山 大納言小豆」「丹波篠山茶」といったブランドを手がける


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クルーザーMAXX