小麦のかび毒『DON』の正しい知識Q&A
麦の栽培で最も重要な病害の一つ赤かび病。赤かび病は収量や品質の低下だけでなくDONなどのかび毒(マイコトキシン)を産出します。食の安全への意識が高まるなか、きちんとした対策のためには、まずは正しい知識が必要です。麦のかび毒(マイコトキシン)についてQ&A形式で紹介します。
マイコトキシンって何ですか?
マイコトキシンは「マイコ」はかび、「トキシン」は毒素を意味し、 日本語では「かび毒」と訳されています。マイコトキシンとはかび類が作り出す代謝物質で、人や動物に対して有害な影響を及ぼす毒素の総称です。麦類の赤かび病をもたらす病原菌の一種であるフザリウム属菌が数種のマイコトキシンを産出することが知られています。
麦の赤かび病菌はどんなマイコトキシンを産出しますか?
赤かび病の原因となる病原菌のうち、数種類がマイコトキシンを産出します。産出されるマイコトキシンはおもに「デオキシニバレノール(以下、DON)」と「ニバレノール(以下、NIV)」の2種類で、特に問題となっているのがDONです。ただし、菌の種類によっては減収をもたらす一方、マイコトキシンを産出しないものもあります。
国内で主に発生する赤かび病菌は以下の表の病原菌です。特に問題となっている病原菌として、フザリウム・グラミネアラム種複合体はDONを、フザリウム・クルモーラムはDONとNIVを産出します。一方で、ミクロドキウム・ニバーレはDONは産出しないが、赤かび病による減収被害をもたらします。
【国内で主に発生する赤かび病菌とマイコトキシン(かび毒)産生能】
DONは健康にどんな影響を及ぼしますか?
DONやNIVに汚染された食品を一度に大量に食べた場合、いわゆる急性毒性として、嘔吐や食欲不振などがみられます。一方、少量を長年にわたって摂取すると、慢性毒性として免疫系に影響があることがわかっています。
現在では、国内でDONによる食中毒の報告はありません。また、世界的にみても死亡例は報告されていません。しかし食の安全を守り、長期接種による健康影響の可能性をできるだけ小さくするためにも麦のDON濃度の低減が非常に重要となります。
現在、DONに対する規制はどのようになっていますか?
食の安全を守るため、日本では厚生労働省により、2002年5月から食用小麦のDONに対して暫定基準値を1.1ppmと定めました。これは、2001年にFAO(国際連合食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が合同で行った安全性評価に基づく基準値です。
暫定というのは、今後、国際機関による議論を受けて、食品衛生法に基づく正式な法規制に移行するまでの値ということでしたが、2022年4月より1.0ppmが正式な基準値として新たに定められます。
小麦栽培で、マイコトキシンの産出が多くなるのはどんなときですか?
シンジェンタでは、フランスで小麦のマイコトキシンに関する大規模な調査を2000年~2001年に実施しました。それによると、マイコトキシンが増加するおもな要因として、天候との関連、耕起との関連、品種との関連などが挙げられています。
下記のグラフのように、1)高温多湿の天候、2)耕起して鋤きこみなどを行わず、前作からの伝染源が除去できていない、3)赤かび病の抵抗性が低い品種を選択の場合、それぞれでマイコトキシンの産出量が増えています。さらに、4)天候と栽培上のリスクが掛け合わされるとマイコトキシンの産出リスクが格段に高まります。
【1.天候との関連性】
【2. 耕起との関連性】
【3. 品種との関連性】
【4. 天候と栽培条件との関連性】
マイコトキシンの産出はどうしたら防げますか?
現時点では、マイコトキシンの産出を完全に押さえる方法は確立されていません。天候要因や耕起、品種の選定に気を配ることが大切です。また、小麦の開花期にフザリウム属菌に対する効果が極めて高い「ミラビスフロアブル」の散布が有効です。
【開花期の小麦の穂】
基準値を超えたDONが検出されたらどうなるのですか?
2002年より1.1ppmの暫定基準を超えたDONが検出されると、その小麦は食用として販売できなくなりました(※2022年4月からは1.0ppm)。良質の小麦を育てるためにも、食の安全を守るためにも、赤かび病への万全の対策が求められます。
赤かび病害粒が1粒でも混じっているといけないと聞きましたが?
2002年10月の農産物検査規格(農産物検査法)の改正により、2003年産麦からは赤かび病被害粒の混入率について0.0%を超えた麦類については規格外に格付けされることになりました。ちなみに赤かび粒混入0.0%というのは800~1000粒入る検査用の皿に、赤かび粒が1粒でもあれば規格外になるという厳しいものです。つまり、千粒中1粒でも赤かび病にかかった粒があれば規格外になってしまいます。
なお、この検査規格の対象は小麦だけでなく、すべての麦種が対象です。したがって、DONの基準値設定の対象となっていない大麦などでも対策が必要となっています。
【小麦の健全粒(左)と赤かび病に罹患した粒(右)】
赤かび病予防とDON対策の両方を上手に行うには?
赤かび病に最も感染しやすいのは開花期です。小麦の赤かび病防除には、この開花始期から開花盛期を確実に抑えることが重要です。散布時期が遅くなると防除効果が低くなるので、まき遅れないように注意しましょう。開花始めに赤かび病に有効かつフザリウム属菌への優れた効果でDON低減効果が期待できるミラビスフロアブルを散布し、その1週間から10日後に異なる系統の薬剤を散布することをおすすめします。
【赤かび病に感染した小麦】
DON低減対策のポイント !
- 前作の作物残渣をすきこむことで伝染減を減らす
- 赤かび病抵抗性が高い品種を選択する
- 小麦の生育状況を把握し、散布開始時期を逸しない
- 開花始めから1週間間隔で2-3回の薬剤散布を行う
- 適期に収穫し、収穫後は速やかに乾燥する
- 収穫物の選別を徹底し、赤かび粒を除去する
ミラビスフロアブルの安定したDON低減効果で小麦のかび毒を低減
殺菌剤ミラビスフロアブルの有効成分アデピディンは、かび毒を産出するフザリウム属菌に優れた効果発揮し、感染に重要な胞子発芽管の伸長を力強く抑制するのでDON低減効果も期待できます。
【ミラビスフロアブルのDON低減効果】
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