雑草を見分け、早期防除に役立てる。主な「科」の特徴は?

病害虫・雑草コラム
農学博士の浅井元朗先生

農研機構植物防疫研究部門雑草防除研究領域雑草防除グループ長で農学博士の浅井元朗先生に雑草をテーマにお話をいただく第3回。今回は農地やその周辺で見られる代表的な雑草の「科」の特徴についてうかがいました。

雑草の種類を特定する手がかりになる「科」


雑草の種類を特定(見分ける)する上で手がかりとなるのが「科」です。植物の科は、おもに花や果実の構造などの形態に基づいて分類されています。同じ科の植物には共通の特徴があります。よく知られた作物の科を知ると、名前のわからない問題雑草がなんのグループに属するのか、という見当がつき、判別の手助けとなるでしょう。

かつての分類は花や果実などの植物の器官を解剖し、形態の似たグループを科や属として分類していました。現在では遺伝子による解析が一般的です。遺伝子を解析して共通の祖先を探る研究がおこなわれ、以前は同じ科に括られていた種類が“他人の空似”であることが分かるなど、新しい知見が得られて再編された科もあります。10数年前までの植物図鑑とそれ以降に出版された図鑑とで、同じ種類でも属する科が違っている場合があるのはそのためです。今がその変化の過渡期なので、図鑑を見て混乱することがあるかもしれませんが、いずれ、新しい見解に整理されていくでしょう。ただし一般的な水田や畑地雑草の分類に関してはそれほど大きな変化はありません。

それでは、代表的な雑草や作物が属する科の特徴をみていきましょう。

イネ科:葉が細く、葉鞘が着物の合わせ目のようになっているのが特徴


雑草防除の世界では、雑草をイネ科とそれ以外とに大別します。農地での代表的なイネ科の雑草はヒエ類(タイヌビエ、イヌビエなどをまとめ、除草剤のラベルではノビエと総称)です。南の地方ほどイネ科雑草の種類が増え、アゼガヤ、畦畔から侵入するアシカキや、スズメノヒエ類などがあります。ほかにもメヒシバやエノコログサ(ねこじゃらし)やススキなどもイネ科です。

雑草は花が咲く前に見分けるのが肝心です。イネ科は葉(葉身)が細く、葉の付け根部分が茎を取り巻いて鞘状(葉鞘)になっているのが特徴です。葉は葉身と葉鞘にはっきり分かれていて、茎を取巻く葉鞘が着物のような合わせ目になっているので、剥がすことができます。葉身と葉鞘のつなぎ目に種類の特徴が現れるので、穂が出る前にもある程度見分けることができます。穂状に緑色のたくさんの小さな花が付き、目立つ花弁がないのも特徴です。

【イヌビエ】
【アゼガヤ】
【スズメノヒエ】
【エノコログサ】
【ススキ】

カヤツリグサ科:葉鞘が完全に閉じている。茎の形が三角


イネ科に似ているグループにカヤツリグサ科があります。イネ科と同じように花は緑色や褐色で目立つ花弁はありません。畑地雑草のカヤツリグサや、水田雑草のクログワイ、ミズガヤツリ、ホタルイなどがよく知られています。葉が細いので、はじめはイネ科と見間違うかもしれません。イネ科では葉鞘が着物の合わせ目のように茎を取り巻くのに対し、カヤツリグサ科では完全に閉じていて、茎から容易に剥がすことはできません。この違いに注目すれば、葉や茎だけでイネ科かカヤツリグサ科かをかなり識別できます。

また、イネ科の茎は円筒形ですが、茎は三角形の種類が多いのがカヤツリグサ科の特徴です。葉が細く、茎が三角形ならカヤツリグサ科という見極めができます。ただ、カヤツリグサ科にも茎が丸い種類がありますので、丸い茎というだけイネ科とは言えません。カヤツリグサ科の雑草にはほとんど葉をほとんど出さない(葉が茎にぴったり張り付いて、葉があるようには見えない)種類もあります。イネ科よりカヤツリグサ科の方が茎や葉の形が多様です。

雑草防除の場面で重要な点があります。イネ科とカヤツリグサ科では見た目は似ているように見えても、除草剤の効果が異なります。イネ科対象の除草剤の成分はカヤツリグサ科には効果がなく、むしろ、広葉の雑草と似た反応を示す傾向があります。

【カヤツリグサ】
【クログワイ】
【ミズガヤツリ】
【イヌホタルイ】

キク科:小さな花が集まっている以外は、種類によって多様


草本植物でイネ科に次いで大きなグループが、キク科です。キクやヒマワリ、コスモス、タンポポ、マリーゴールドなど多くのよく知られた花があります。キク科の雑草ではアキノノゲシ、トゲチシャ、ヨモギ、セイタカアワダチソウなど、作物では野菜のレタスやゴボウ、フキもキク科です。レタスの花を見ることは少ないかもしれませんが、収穫せずにそのまま育てれば、董立ちして黄色いキクのような花を咲かせます。タンポポやひまわりのように目立つ“花”は、実は小さな花の集まりです。これを頭状花序(頭花)といい、頭花をつくるのがキク科の共通した特徴です。ヨモギの花を見たことがあるでしょうか? あまり気づかれにくいかもしれませんが、秋に茎の先に釣鐘型のたくさんの小さな花をつけます。その小さな花(頭花)も実は、より小さな花の集まりなのです。

キク科はとても種類が多く、花の付け方はさまざまで、一見、キク科とは思えない種類も少なくありません。花粉症の原因でよく知られるブタクサの仲間もキク科です。ブタクサは枝先に雄花だけがたくさん集まった穂が付き、大量の花粉を飛ばします。雄花の穂の下の葉の付け根に、上向きにめしべを伸ばした少数の雌花がつきます。どちらも目立つ花弁はなく、目立ちません。また、“ひっつきむし”として知られるオオオナモミもキク科です。茎の先端にたくさんの雄花が球形に集まり、葉の付け根にいくつかの雌花がつき、受粉するとトゲトゲの実が熟します。雄花と雌花に分かれていますが、小さな花の集まり(頭花)をつくるとく特徴は共通します。

キク科の多くは、タンポポの綿毛のように、タネを風で飛ばす仕組みを持っていますが、ブタクサもオオオナモミも違ったタネをつくります。

キク科は種類が多く、共通する特徴である頭花のかたちも多様です。また、葉の形や葉の付き方も多様です。いろいろ種類を覚えて慣れてくると、“なんとなくキク科に見える”場面も出てきますが、それまでは、あれもキク科、これもキク科、と種類を覚えるのが近道と思います。

【アキノノゲシ】
【ヨモギ】
【ブタクサ】
【オオオナモミ】

マメ科:莢に包まれたマメを作る。共通した葉の形も見分けのポイント


マメ科の種子は「豆」になります。身近な作物なども多く、代表的なものではダイズやサヤエンドウ、シロツメクサがあげられます。莢に包まれた実の中に“マメ”が実ります。シロツメクサの莢を見たことがあるでしょうか? シロツメクサの花も“頭花”で、小さな花の集まりです。花は枯れた後、下向きになります。このとき、茶色に枯れた花弁が、中の莢を包んでいるので外からは莢があるかどうかわかりません。花弁を剥がすと、中に莢があり、その中に小さなマメが何粒かあります。小さくても莢の中にマメがあるつくりは、他のマメ科と同じです。

マメ科の葉の特徴は、1枚の葉が細かく分かれる点です。シロツメクサやダイズは3枚の小さな葉で1枚の葉になっています。サヤエンドウや雑草のカラスノエンドウは、1枚の葉が、向かい合った十数対の小さな葉でできています。このつくりを「複葉」と呼びます。また、葉の付け根には1対の小さな付属物(托葉)がついています。複葉を持ち、托葉がついていれば、マメ科の植物かもしれないと想像がつきます。

【シロツメクサ】
【カラスノエンドウ】

タデ科:葉の付け根に托葉鞘を作る。果実は三角形やレンズ型


タデ科の身近な作物にはソバがあります。よく知られた雑草では、イヌタデやハルタデなどの畑に多い一年生の雑草と、畑の周辺などに多い多年生のギシギシやイタドリなどがあります。地際に葉を広げるギシギシと、地際から太い茎を出すイタドリとでは見た目の印象は違いますが、葉のつくり、花のつくりは共通しています。
タデ科の共通した特徴には、葉の付け根に托葉鞘という、輪っか状に茎を取り巻く膜を作る点があります。小さな芽生えでも、本葉が2枚出て枝分かれすれば、鞘がついているかが確認できます。そこに注目すれば、花が咲く前にもタデ科の種類と絞り込むことができます。
花は6枚の花弁と萼がほぼ同じ形をしているので、まとめて花被片と呼びます。花が咲いて結実した後に、花被片は果実(タネ)を包んだ状態で残ることが特徴です。また、果実が三角形(蕎麦の実)やレンズ型になるのも特徴です。

【オオイヌタデ】
【ハルタデ】
【イタドリ】

アブラナ科:花弁が4枚ある。莢の中にタネを作るのも特徴


アブラナ科の野菜ではハクサイ、キャベツ、ダイコン、カブなどがあります。代表的な雑草では、ナズナ、イヌガラシなど温暖地の畑地や道ばたなどで見られます。冬から春の田んぼに見られるタネツケバナもアブラナ科です。北半球の温帯に分布する種類が多く、秋に生育を始めて冬や涼しい時期に、地表に何枚も葉を広げる“ロゼット”を作る種類がいくつもあります。
ターサイ、チンゲンサイなどはアブラナの仲間で、ロゼット葉を食用に利用する作物です。キク科のタンポポやハルジオン、ヒメジョオンなども秋に芽生えてロゼットで冬越しをします。ロゼット状の植物を見たら、まずはキク科かアブラナ科が候補です。
花の特徴は花弁と萼が4枚ずつです。花弁が4枚ならアブラナ科かもしれません。花の中には雄しべが6本、雌しべが1本あり、雌しべが発達してマメ科のような莢をつくり、その中にタネがいくつも入っています。

【ナズナ】
【スカシタゴボウ】

農業生産現場が大きく変化しているからこそ、雑草を知ることが重要


雑草を見て、どの科かが推測できれば、種類の特定が早道になります。雑草の名前が分かれば、その種類が年間を通してどんな振る舞いをするか、どう増減するのか、どんな地域で見られるかなどを調べることができます。その種類が生える場所(畑なのか水田なのか)や、畦畔には生えるが水田には入らないなどといった特性、季節による盛衰の推移が予想できれば早めの防除対策につながります。

3回に渡って雑草についてのお話をしてきました。日本の農業現場は、高齢化や後継者不足などによって、生産者の数は減少しています。1経営体当りの栽培面積が増え、そのうえ気候変動も激しく、栽培計画通りの生産が難しい場面も増えています。これまでは適期の作業ができて、雑草が繁茂しないようにできていたのに、タイミングを逸して雑草の対処が間に合わないという確率がさらに高まるという心配があります。新たに問題となりうる雑草に対し、生産現場で早い段階で特定して、適切な対処をすることは今後ますます重要です。

雑草防除の研究開発は、作物によって差があります。水稲に関しては農薬メーカーの努力によって、新たな製品が次々に開発されてきました。有効な除草剤を用い、適正な面積で、適正な水管理ができていればほとんどの雑草は問題にならない水準です。しかし、1経営体あたりの栽培面積が拡大し、防除に手が回らなかったり、水位の調節が行き届かなかったりと、生産現場の変化に最新の雑草防除が追いついていない場面がみられます。また、畑地に関しては、世界的に見ても、今後、画期的な製品が開発される見通しはほとんどありません。

新たな雑草が現れて、既存の手段では防除できない場合、それをいかに初発で封じ込められるかが大事です。問題の初発段階で徹底的に防除する、社会としてそのしくみを築くのはこれからです。問題は必ず現場から始まります。生産現場の雑草の動向について情報を集めて、それらを組織的に拾い上げ、できるだけ早い対応が採れるような仕組みをつくるかが大きな課題です。

【農研機構植物防疫研究部門雑草防除研究領域雑草防除グループ長・農学博士 浅井元朗先生】

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