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「バイオスティミュラント」とは何か?バイオスティミュラントの基本から作物別使用ケース、将来までを分かりやすく解説

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「バイオスティミュラント」とは何か?バイオスティミュラントの基本から作物別使用ケース、将来までを分かりやすく解説

近年、耳にする機会が増えている新しい農業資材がバイオスティミュラント。「農薬でも肥料でも土壌改良剤でもない」と言われるバイオスティミュラントとは何なのでしょうか?弊社戦略企画グループの甘利芳樹が、5つのトピックを通してバイオスティミュラントを解説します。

  1. バイオスティミュラントは、植物を刺激することで植物の力を引き出す資材
  2. 作物別バイオスティミュラント想定使用ケース
  3. なぜバイオスティミュラントが注目されるようになったのか?
  4. 日本におけるバイオスティミュラントの課題
  5. シンジェンタとバイオスティミュラントの可能性
     

1. バイオスティミュラントは、植物を刺激することで植物の力を引き出す資材


バイオスティミュラントは英語で表記するとBiostimulant。直訳すると生物刺激剤であり、ヨーロッパにおいては農業で使われるバイオスティミュラントはPlant Biostimulantと表現されます。一般的にバイオスティミュラントは「農薬でも肥料でも土壌改良剤でもない」と説明されますが、それは以下のような違いがあるからです。

  • 農薬は害虫や雑草などの「生物的ストレス」から作物を守るのに対して、バイオスティミュラントは高温・乾燥・冷害や塩害といった「非生物的ストレス」を緩和する。
  • 肥料はそれ自体が植物の栄養になるのに対して、バイオスティミュラントは植物による栄養素の取り込みや利用効率を高める。
  • 土壌改良剤は土壌を物理的・生物的に変化させるのに対して、バイオスティミュラントは植物をより良い生理状態にする。

より簡潔にいうと、バイオスティミュラントは「植物を刺激して植物が元々有している力を引き出す(植物の生理プロセスに作用する)」ことで、収量や品質を維持したり、収穫後の貯蔵性を高める、といった効果を引き出す農業資材です。

 

【シンジェンタジャパン 戦略企画グループの甘利芳樹】

シンジェンタジャパン 戦略企画グループ 甘利

 

そんなバイオスティミュラントには、どのような種類があるのでしょうか?

「一般的にバイオスティミュラントの種類は、資材の起源別で分類されています。腐植質、海藻、アミノ酸…といった分け方です。そのベースはヨーロッパの業界団体であるEBIC*が作成したもので、それに準じたものが日本でも使用されています。一方で農業生産の現場では、資材の起源=原料が何であるかは、それ程重要ではありません。その資材に、どのような効果が、どれ位あるのかが重要視されます。そのため、シンジェンタでは、生産者様に理解していただきやすいように、『バイオスティミュラントの効果による分類』をおこなっています。具体的には、バイオスティミュラントの代表的な効果である『非生物ストレス』・『作物品質』・『養分利用率』・『土壌の健全性(Soil Health)を保つ』に基づいた分類です」

*The European Biostimulants Industry Council;ヨーロッパ・バイオスティミュラント産業協議会

 

2. 作物別バイオスティミュラント想定使用ケース


シンジェンタが考える『バイオスティミュラントの効果による分類』を踏まえ、作物別のバイオスティミュラント想定使用例、そしてバイオスティミュラントにできることを紹介していきます。

「非生物ストレス」に対応するバイオスティミュラント【水稲・大豆の場合】

「まず、『非生物的ストレス』に対するバイオスティミュラントの使用例としてお話ししたいのは『高温時の水稲』です。近年、夏場の酷暑・猛暑が話題になりますが、水稲作では登熟期の高温障害による品質低下=乳白粒が問題になっています。現在は品種や作期の変更、適切な水管理などにより対応していますが、これらの対策にくわえてバイオスティミュラントが活躍します。中期予報などを参考にして熱帯夜が続くようならば、高温ストレスに強くなるようなバイオスティミュラントを事前に処理しておくことで高温障害の被害を減らすことができるのです」

このようにバイオスティミュラントは、ストレスが予測され危ないと思ったときに後出し的に使用できるので無駄なく使用できるというのもメリットと言えます。

 

水稲栽培においてのバイオスティミュラントの想定使用ケース

 

世界的には、南米における大豆やトウモロコシの大規模栽培と、ヨーロッパにおけるブドウ等の果樹栽培では、乾燥ストレス対応としてバイオスティミュラントは今やなくてはならない資材として広く使われています。一方で、国内では大豆栽培場面で活用の可能性を甘利は感じているそうです。

「海外の大規模栽培では大豆の収量は400kg/10aとも言われますが、日本の平均収量は150kg/10aでしかありません。低収量の原因の一つが『湿害』であると考えられます。日本では大豆の播種時期と梅雨の季節が重なり、また水田転換畑で大豆を作付している方が多いため、大豆播種直後に過湿条件にさらされることがあります。こうした過湿土壌では大豆種子は低酸素状態=「非生物的ストレス」にさらされ、初期成育不良に陥りやすいのです。バイオスティミュラントを活用してストレスを緩和することができれば、収量増が可能になると考えられます」

 

大豆栽培においてのバイオスティミュラントの想定使用ケース

 

「作物品質」を高めるためのバイオスティミュラント【トマト・イチゴの場合】

「施設園芸の生産者様は、日本でもバイオスティミュラントの使用を始めている方が増えています。具体的には、トマトやイチゴといった果菜類でのバイオスティミュラントの活用です」

バイオスティミュラントの中には光合成などの代謝を活性化する効果が期待できる資材があります。こうしたバイオスティミュラントを使用することで甘くなる(糖度が上がる)という効果が期待できます。可能な限り水分を切りつつバイオスティミュラントを使用することで糖度を高める=『作物品質を高める』という高度なバイオスティミュラント使用方法もあるそうです。こうした活用ケースが増えている理由は「果菜類では作物品質を高めることで、高い価格で販売を見込めるため」と甘利は言います。

 

トマト・いちご栽培においてのバイオスティミュラントの想定使用ケース

 

「肥料の利用効率を高める」ためのバイオスティミュラント【てんさいの場合】

肥料価格が右肩上がりの今、特に注目したいのが、『肥料利用効率を高める』ためのバイオスティミュラント。田畑には投入された肥料は全てが作物に吸収利用されるのではなく、利用率は窒素で40~60%程度、りん酸では10~20%程度と言われています。残りの肥料成分は、流亡したり化学変化して大気中に放出されたり、あるいは未利用なまま土壌に残留しています。

「例えば、てんさいは生産費の25%程を肥料・堆肥が占めています。これは主要作物の中でも特に肥料費の比率が高く、肥料価格の影響を特に受けやすい作物と言えます。他の作物でも似た状況にあり、簡単には販売価格への転嫁ができない作物も多く、生産者様が頭を悩ませています。ですから利益を確保するには、肥料の利用効率を高め、生産費を抑える・最適化することが、今後より重要になってきます」

現在の日本国内での事例は多くないのですが、将来的には肥料の利用効率を高めるためにバイオスティミュラントを使用するという生産者が増えて行くと考えられます。

 

てんさい栽培においてのバイオスティミュラントの想定使用ケース

 

「土壌の健全性を保つ」ためのバイオスティミュラント【その他】

シンジェンタのバイオスティミュラント分類で特徴的なのは、この『土壌の健全性(Soil Health)を保つ』という機能に注目している点です。

『土壌の健全性を保つ』の事例として、海外では圃場への塩類集積や土壌流出が問題になっており、それに対応するためにバイオスティミュラントを使用することが多々あります。甘利はこの事例を通して、「日本でも沿岸部で塩害が出やすい圃場や、長年の施肥の蓄積によって塩類集積の進んだ圃場がありますので、そういった場面ではバイオスティミュラントを活用することで課題を解決できるのではないでしょうか」と期待を寄せています。

また、「微生物そのものや微生物を活性化させるようなバイオスティミュラントを使用することで土壌の状態を健全にして緑肥・堆肥の利用効率を上げたり作物の生産性を高めたりするという使い方もできそうです。ただ後者の利用法は日本では土壌改良資材に該当すると考えられます」と今後の可能性にも言及しました。

 

「土壌の健全性を保つ」ためのバイオスティミュラント

 

3. なぜバイオスティミュラントが注目されるようになったのか?


ヨーロッパのFarm to Fork戦略と、バイオスティミュラントの法的定義の実現

ところで何故ここ数年でバイオスティミュラントという資材が注目されるようになったのでしょうか?バイオスティミュラント先進地域であるヨーロッパにおける普及の背景を、スイスでの勤務経験もある甘利が現地の肌感覚を交えつつ説明します。

「2020年5月に、Farm to Fork戦略(農場から食卓まで;持続可能な経済社会に向けた構想である欧州グリーン・ディールを実現するための農業部門における中心戦略)が公表されました。このFarm to Fork戦略はEU市民の省資源(化石燃料、化成肥料、農薬など)などの環境への関心の高さを反映したものだと感じました。もちろん、近年農薬登録要件が厳しくなっているという状況もありますが、一方で、同時に農業界がこの社会要請に応えつつ、生産量や品質を確保しようと努力した結果、バイオスティミュラントの普及が進んでいると考えています」

もう一つの要因は、EUにおけるバイオスティミュラントの法的定義の実現です。2022年7月に施行されたEU新肥料規則(2019/1009)にバイオスティミュラントが記載されたことで、バイオスティミュラント製品にEU加盟国基準証明である「CEマーク」が付帯されるようになりました。このルール作りが実現したため、各メーカーがバイオスティミュラントに参入しやすくなったのです。

 

ヨーロッパのFarm to Fork戦略と、バイオスティミュラントの法的定義の実現

 

なんとなく効果がありそうから、ゲノム解析で作用機序の裏付けが可能に

さらに「やや難しい話になりますが……」前置きしたうえで「科学技術が進歩したおかげでバイオスティミュラントがどのように効くのかが分かるようになったというのもバイオスティミュラント普及の一因です」と言います。

「2000年代に主要なモデル生物のゲノム解読が完了し、ポストゲノムと呼ばれる、ゲノム情報を活用した研究の時代が到来しました。細胞の中で起きる遺伝子レベルの変化を調べる方法が発達し、一つ一つの遺伝子の役割への理解が進みました。バイオスティミュラントを使用することでどんな作用が植物体内で起きるのか、分子レベルでわかるようになってきたのです。なんとなく効果があるようだ…と思われていたバイオスティミュラント製品の作用機序が裏付けられるようになったり、新たなバイオスティミュラントの研究開発がしやすくなりました」

こうした背景もありヨーロッパのバイオスティミュラント市場は世界の市場の約1/4を占めており、規模を年々拡大しています。ある調査によると、世界のバイオスティミュラント市場は1995年には200億円程度だったものが、2014年には1,400億円に、近年は3,000億円を上回っており、2028年には59億ドル(約8,000億円)にまで成長する見込みであると言われています。

「日本においてもバイオスティミュラントの注目度は年々高まっています。日本のバイオスティミュラント業界団体であり、弊社も加盟している日本バイオスティミュラント協議会の会員数も2018年の発足時は8社でしたが、2022年11月現在で140社を越え増加しています。日本においては生産現場に広く普及するまでには至っていませんが、注目度は高まっていると言えます」

 

4. 日本におけるバイオスティミュラントの課題


ストレス要因を把握し、適したバイオスティミュラントを使用するという考え方が重要

ところで何故、日本においてはバイオスティミュラントが生産現場に普及していないのでしょうか?「それには幾つか理由があります」と甘利は説明します。どんな場面でも収量や品質を改善できる魔法のようなバイオスティミュラントはありません。個別のマイナス要因にアプローチして、本来得られるはずの収量を保つために、バイオスティミュラントを使用します。作物が本来持つ力を超えて収量を高めたりすることはできません。この性質を理解しておかないと、せっかくバイオスティミュラントを使用したのに効果がないと感じてしまい、やめてしまうということになります。

「こういうストレス環境だからこのバイオスティミュラント製品を使用するといったように、バイオスティミュラントを使用して効果を得るには、作物や圃場の状態を把握してストレス要因を把握する必要があります。そのうえで、それに適したバイオスティミュラント製品を適切なタイミングで使用する。そうすることで初めて効果が得られるのです」

 

ストレス要因を把握し、適したバイオスティミュラントを使用するという考え方が重要

 

生産者に相応しいバイオスティミュラントをお勧めできる環境の整備

つづけて「農業界全体でのバイオスティミュラントの認知度・理解度を高める必要があります。日本では、普及員・指導員の方などが課題を抱えた生産者に対してバイオスティミュラントをお勧めするという場面はまだ限定的です。農薬には防除暦がありますし、肥料なら土壌診断を行って施肥設計をサポートするということがあります。それと同じようにバイオスティミュラントも、地域、作物、時期、症状に応じてお勧めしていただける場面を増やしていけたら」と甘利は話します。

生産者が適切にバイオスティミュラント製品を使用して効果を得るには、ストレス要因を正しく把握して適したバイオスティミュラント製品を適切なタイミングで使用することが重要であり、それをサポートする仕組みの必要性が伺えます。加えてEUのような法整備(規格・基準の制定)や、その前段階としての業界団体等による基準適合マーク制定が課題と言えそうです。

 

5. シンジェンタとバイオスティミュラントの可能性


シンジェンタは現在農薬と種子をコアビジネスとしていますが、中期ビジョンのなかではPlant Health事業の確立を掲げており、植物の健康(Plant Health)そのものに貢献していく方法の一つとしてバイオスティミュラントを重要な領域であると認識しています。事実、シンジェンタは海外では既にバイオスティミュラント事業を多くの国で展開しており、バイオスティミュラントの世界的リーディングカンパニーであるValagroの買収など、M&Aやコラボレーションを通じたビジネスの拡大に取り組んでいます。

最後に「農薬だけでなくバイオスティミュラント製品を加えることで、より一層、生産者様のお役に立ちつつ、『Plant Health Company』というシンジェンタのあるべき姿へと進化して参ります」と今後のシンジェンタの方向性を示させていただきました。

 

シンジェンタとバイオスティミュラントの可能性