病害虫・雑草防除ガイド - 害虫と病気の話
27

害虫の活動と有効積算温度の関係

 冬の寒さが厳しくなるにつれ、害虫(昆虫)を野外ではあまり見かけないようになりました。害虫はどこへ行ったのでしょうか?しかし、暖かい温室のなかでは、冬でも活発に活動している害虫もいます。昆虫(害虫)は変温動物で、日本のように四季の明らかな区別のある地域に棲む場合、活動に不利な冬は休眠して過ごすことが、生命を存続させるためには有利になります。休眠に関係する要因は日長が大きく関係し、冬に向かう短日で休眠が起こり、夏に向かう長日条件で休眠打破が起こることが一般的です。

 休眠しない害虫は、南方からの侵入害虫などにみられますが、これらの害虫は温度変化の少ない、落葉の下や樹皮の間などに潜り込んで生息しています。しかし、低温耐性以下に気温が低下すると死亡してしまいますので、越冬できるかどうかは、生息している環境条件によって大きく左右されることになります。

発育ゼロ点と有効積算温度

 これから日長が長くなり暖かくなるにつれて、害虫は休眠から覚め、休眠していない害虫も温度が高くなるにつれ活動を始めるわけですが、変温動物の昆虫は、ある発育ステージを完了するまでに必要とする時間は、その生息している環境温度に反比例し、温度が低いと長く、高いと短くなります。つまり、発育の速さは温度に比例するということです。
 このように、温度に比例して害虫の発育は進みますが、発育に最低必要な温度の限界点(発育が進まなくなる温度)を発育ゼロ点と呼んでいます。変温動物の害虫はこの発育ゼロ点以下では発育が進まないことになります。そして、発育ゼロ点以下の温度は発育に関係ないものとして、その発育ゼロ点を差し引いた温度を発育に有効な温度とし、その積算した温度を有効積算温度と呼び、日度であらわします。 主な害虫の発育ゼロ点と有効積算温度(日度)は下記のとおりです。

モモアカアブラムシの場合、発育ゼロ点は3.1℃、幼虫から成虫になるまでの有効積算温度は129日度ということになります。モモアカアブラムシのように冬でも繁殖している害虫には、発育ゼロ点が低い害虫もいますが、おおむね10℃前後の害虫が多いようです。

有効積算温度の計算方法

 チャノキイロアザミウマを例にとって発育ゼロ点と有効積算温度の関係を説明すると、9.1℃以上になると発育が始まり、1日の平均気温が9.1℃以上の日の温度から9.1℃を差し引いた温度を毎日足して、その合計した温度が280℃になると、成虫が出現(次の世代)することになります。(計算例は表1を参照)年間の世代数は毎日の発育ゼロ点以上になった日の気温から9.1℃を差し引いた温度を全部たした合計有効積算温度で割れば、年間の世代数を求めることができます。
 有効積算温度が高い害虫は年間の世代数が少なく、低い害虫は世代数が多いということになります。

  • 表1 チャノキイロアザミウマの有効積算温度の計算例

    gaichu27_hyo2.gif

気象庁観測のデータによると2003年、東京では3月23日以降から気温が9.1℃を上回る日が続いています。そこでこの日より起算すると、5月6日に有効積算温度が289.1日度となり、チャノキイロアザミウマの有効積算温度280日度を超えます。従って、5月6日前後にチャノキイロアザミウマの新成虫が出現すると予測できます。

 地球の温暖化が注目されていますが、最近の気温の上昇は、農作物の害虫にも何らかの影響を与えており、発生時期が早くなったり、年間の世代数が多くなったりすることが指摘されています。 変温動物である害虫の発育は、これまで述べてきたようにその生息している環境条件に大きく左右されているので、発育ゼロ点から有効積算温度を計算することにより、今年の害虫の発生時期や年間の世代数をだいたい予測することができます。

(参考文献:桐谷圭治(2001)昆虫と気象 西山道書店 p177)

 

シンジェンタ ジャパン株式会社
開発本部 技術顧問
古橋 嘉一

2004年1月20日掲載

ページの先頭へ戻る