雑草の特徴とライフサイクルを知り、種子の生産と雑草の繁殖を抑える
夏生と冬生に分けられる一年生雑草。種子で繁殖し、1年以内に一生が終わる
畑地雑草は大きく、一年生雑草と多年生雑草とに区分されます。さらに農業上では、イネ科雑草と広葉雑草に区分されます。イネ科は比較的見分けやすい細長い葉が特徴です。広葉はイネ科以外のもので、多くが平たく幅広い葉を持ちます。この区分がされるのは、それぞれに除草効果のある成分が異なるためです。
種子によって繁殖し、一年以内にその生活環を全うするものが一年生雑草です。種子から芽が出て花が咲き、種子を落としたら植物体は全体が枯れてしまいます。
日本を含む温帯地域では、一年生雑草は大きく2つに区分されます。1つは春から夏の暖かくなる時期に出芽し、晩秋までに種子を付けて枯れてしまう夏生。もう1つは涼しくなってから出芽、越冬し、翌春に開花して種子を付け、暑くなったら枯れてしまう冬生です。明確に分かれるのではなく、同じ種類が関東以南では冬生で過ごすけれども、北海道など北日本では、春先から発芽して夏前に枯れるものもあります。英語では夏生はwarm season annuals(暖かい時期の一年生)、冬生はcool season annuals(涼しい時期の一年生)となり、こちらの方が実態を捉えた表現といえるでしょう。
地ぎわに芽がある単立(株立)型、地を這う地表ほふく型、繁殖力が旺盛な地下拡大型
多年生雑草は地上部が枯れても、地下の茎や根などが生き残り、条件が整うとまた地ぎわや土中から芽や茎が出てくる雑草です。茎や根などで増えることを栄養繁殖といいます。多年生雑草には種子も多く生産する種類から、種子をほとんどつけず、栄養繁殖に頼るものまであります。種子繁殖と栄養繁殖と、どちらに比重が大きいかは種類ごとに違います。
また、多年生雑草には夏に生育が衰える(夏休みをする)タイプと、冬に地上部が枯れる(冬休みをする)タイプがあります。夏休みをする身近な植物ではタンポポ類やシロツメクサなどがあげられます。どちらも夏に地上部は勢いをなくしますが、全体が枯れてしまうのではなく、涼しくなるとまた葉や茎を広げます。
冬休みをするのは、ススキなどです。夏に穂を出し秋になって種子をつくり、冬は地上部が枯れて越冬します。春先になると地際からまた芽を出し、4月頃からどんどん葉を増やし株が大きくするというサイクルを何年も繰り返していきます。
多年生雑草は、単立型(株立ち型)、地表ほふく型、地下拡大型の3つのタイプに分けられます。単立型は、たとえばタンポポのように太い根を張り、地ぎわの太く短い茎にたくさんの芽があります。地上部が刈り取られても地ぎわの芽から再生するタイプです。季節によって地上部の勢いが衰えても根に栄養分を蓄えていますので、そこからまた再生します。ギシギシやオオバコなども単立型の多年草雑草です。
地上ほふく型は、地表もしくは地中の浅いところを茎が這い、茎の節々から根を張り、広がっていきます。シロツメクサやカタバミなどがその代表例です。
抜いても、抜いても生えてくる地下拡大型
地下拡大型は、土の中で横に拡げた茎あるいは根から何本も新しい茎を出していきます。抜いても抜いてもまたすぐ生えてくるのは、この地下の茎や根が原因です。そのため、防除が難しい雑草が多く、有名なものにスギナがあります。また、ヨモギやセイタカアワダチソウなども地下10センチから20センチの辺りに地下茎を拡げ、そこから新しい茎を地上に伸ばすので、地上を刈り取っても再生します。
では、多年生雑草の1つの株は、何年くらい寿命があるのか。それに関してはわからないことが多いですが、単立型は、ある一定の年数がきたらその株の寿命が尽きていくようです。また、地表ほふく型と地下拡大型は次々と新しい茎や根を伸ばし、古い部分は枯れていくと考えられます。
生育期間が長ければ長いほど大きく育ち、種子の生産量も増える
雑草がつくる種子の数は、生育期間の長さが影響します。雑草の芽生えのタイミングはまちまちですが、発芽してから開花するまでの生育期間が長ければ長いほど大きく育ち、種子の量も多くなります。同じ種類でも、種子の生産量も100倍から1000倍くらいの差があります。種子の生産量は、親株の大きさに比例するのです。
仮に雑草を全く防除しない場所でフルサイズに生育した雑草の親株が生産する種子と、防除をし続けて最後の頃に出てきた小さな親株が生産する種子の数とでは、大きく異なります。防除が十分ではないと、大量の種子が圃場にばらまかれ、地中に蓄積されて翌年以降の貯金となり、雑草の大発生などの要因になるのです。
一般的に大きな種子ほど生産される数は少なく、小さな種子ほど数は多くなります。たとえばアゼナは小型の雑草ですが、長さ数ミリの果実の中に数百の種子があり、1株で数千粒の種子をつくります。その種子は倍率の高い顕微鏡でようやく形がわかる程度の非常に小さなものです。ただ、小さな種子は芽生えがとても小さく、芽生えたあとの生存率も低くなります。一方、大きな種子を少し作る雑草は、種子に栄養分が蓄えられているので芽生えの段階から大きく、芽生えの生存率が高くなります。数が多く、小さな種子の方の繁殖力が高いかといえば、そうとも言えず、生えた場所の環境が芽生えの運命を決めます。
種子を生産するタイミングは雑草によってさまざま
植物が自分の体を大きくするための成長を栄養成長、花を咲かせ、種子をつくるための成長を生殖成長といいます。栄養成長から生殖成長に移る、つまり種子生産を始めるタイミングは雑草によって異なりますが、たとえば夜の長さなどがシグナルとなります。シロザ、オオブタクサなどは、発芽の時期が異なってもだいたいお盆明けから花が咲き始めます。夜の長さというシグナルに反応するので発芽が1ヶ月くらい遅れても花を咲かせる時期は揃っています。大きな株も小さな株も、ほぼ同じ時期に花を咲かせ、種子を生産します。
芽生えてからかなり早い段階から花を咲かせ、種子を落とすタイプもいます。株が小さくても季節に関係なく、種子を付けます。葉物野菜の畑で問題となっているゴウシュウアリタソウがその典型です。葉物類など作物が短期間で更新されていく圃場で、1ヶ月程度の短い期間で種子を落とし、芽生え、また種子を生産する事を1年に何度も繰り返しているのです。ゴウシュウアリタソウは作物の陰になるとほとんど生育できないので、大豆やトウモロコシのように何ヶ月も栽培する作物では問題にはなりません。
作物の栽培が雑草に隙を与える
畑の土中に一年生雑草の種子が大量に蓄積していても、生えた雑草が種子をつける前に頻繁に耕起を繰り返せば、繁殖を防止できます。しかし作物が栽培されていると、圃場全面を耕起することはできません。そこに、雑草が生育する隙ができてしまいます。作物ごとに、その栽培に特有の耕起のタイミングや使える除草剤の防除範囲があり、それをすり抜ける特性を持った種類が生き残って種子を生産してしまうのです。
防除の大前提は、作物の栽培前の雑草の根絶と耕起
畑地の雑草防除の大前提は、作物の植え付けまでには圃場に生えている雑草を根絶させること。そして耕起して圃場を均一な更地にすることです。作物の植え付けや播種のために耕すことがシグナルとなって、雑草が一斉に芽生えてきます。均一に整地すれば、土壌処理除草剤の本来の効果を発揮することができ、防除がしやすくなります。作物の栽培前から栽培初期にかけての雑草防除効果を高めるには、このような準備が重要です。
作物圃場に多年生雑草が入り込んでしまうととても厄介です。多年草雑草の防除は、作物のない間に耕起を繰り返す、地下まで枯らすなどの地下部を根絶させる対策が基本です。一年生作物の栽培を続けた圃場では、多年生雑草が繁茂することは少ないので、そもそも防除対策が考慮されていません。慣行の防除メニュは一年生雑草を想定したもので、そこから外れてしまう種類に対してどう防除するか? その畑を次のシーズンからどう使うかを考え、来年の雑草を減らすために、作物のない、圃場が空いている間にできる対策を採るのが大切です。
畑地雑草の区分と主な草種
イネ科 | 一年生雑草 | 夏生 | イヌビエ、メヒシバ、オヒシバ | |
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冬生 | スズメノテッポウ、スズメノカタビラ、カラスムギ、ネズミムギ | |||
多年生雑草 | 単立(株立) | 夏休み型 | イヌムギ | |
冬休み型 | チカラシバ、シマスズメノヒエ | |||
地表ほふく型 | 夏休み型 | |||
冬休み型 | キシュウスズメノヒエ | |||
地下拡大型 | 夏休み型 | シバムギ | ||
冬休み型 | チガヤ、セイバンモロコシ | |||
広葉 | 一年生雑草 | 夏生 | オオブタクサ、アレチウリ、ハルタデ、スベリヒユ | |
冬生 | ナズナ、コハコベ、スカシタゴボウ、ヤエムグラ | |||
多年生雑草 | 単立(株立) | 夏休み型 | タンポポ類、ギシギシ類 | |
冬休み型 | オオバコ | |||
地表ほふく型 | 夏休み型 | シロツメクサ、イワニガナ | ||
冬休み型 | カタバミ | |||
地下拡大型 | 夏休み型 | キレハイヌガラシ、ヒメスイバ | ||
冬休み型 | ヨモギ、セイタカアワダチソウ、ワルナスビ、ハマスゲ、スギナなど |