農地を守り、地域を守る「守りの農業」で、農業の可能性を拓く
京都大学大学院農学研究科 小田滋晃様

2016/12/22(木)

高齢化や後継者難などによる農業人口の減少や、耕作放棄地の増加など、様々な課題を抱える農業。その課題を解決しようと、各地で様々な取り組みも行われています。
今月は京都大学大学院農学研究科で、農業経済学、農業経営学、農業会計学、農業情報学を研究されている小田滋晃(おだ・しげあき)教授に日本の農業の現状と課題について事例を交えながらお伺いしました。

日本の農業の現状についてどうお考えですか?

日本の農地は年々減少し、国土の12%を切ってしまいました。
それによって、耕作放棄地や限界集落が増加しており、集落あるいは地域をどう守っていくかを考えた農業を目指すことが課題だと考えています。

そもそも農業とは土地を使って農産物を生産するという点が、他の産業と大きく異なります。
農業をやめてしまうと土地が荒れ、農地を中心とした水源なども含めた「農業生産諸資源」が衰えてしまうのです。
日本は島国なのでピンと来ませんが、他国と国境を接していると、荒れた土地から他国が攻めてくる危険性もあります。
国土を荒らすことは防衛問題にもつながるのです。
事実、ヨーロッパでは農業への補助金が国防費から支出されている国もあると聞きます。
農業に税金を使うのが当たり前、という考えからです。
日本でも農業を守るにはお金がかかることを踏まえて、集落や地域でどう守っていくかを考えないとならないのではないでしょうか。


現在、農地の集約などによる大規模化も進んでいますが、課題解決に結びつけることはできるでしょうか。

  • 小田滋晃教授

    小田滋晃教授

農地の集約については、平地と中山間地域を分けて考える必要があります。
平地では集約が進んではいますが、圃場が分散しているところが多く、規模拡大の強みが発揮できていない点が課題です。
ただ、最近は状況がよくなりつつあり、たとえば、滋賀県では「集落一農場方式」筆で集落の水田を集約する動きが進んでいますし、青森県の「フラップあぐり北三沢」のように約100haを1ヶ所に集約した広大な面積で飼料米を生産し、地域の酪農で使うといったように耕畜連携も進んでいます。
集約させた土地を効率よく使い、成功をおさめている経営者も出てきました。

しかし、中山間地域は集約することが厳しいのが現状です。
日本の農地は約450万haで、このうち約40万haが耕作放棄地となっていますが、その多くは中山間地域にあります。
中山間地域を放棄すると山が荒れ、鳥獣被害の拡大や河川の水源への悪影響など、様々な問題も生じますが、大規模化することは難しく、課題解決にはなりません。
林業とも協力しながら、新しい可能性を探り、中山間地域の農業を守っていかなければならないのです。


食を生産するだけではない農業の可能性

中山間地域には、どのような可能性が考えられますか?

農業は他の産業と違い、食を生産し、それを売り買いするだけではない事業を展開できます。
農業体験やオーナー制度など景観の美しさや都会ではできないことに価値を見いだすのも可能性のひとつです。
たとえば三重県伊賀市では「菜の花プロジェクト」を展開しています。
風光明媚な中山間地域の景観を観光資源にし、菜の花で作った菜種油を地域の特産品にするといった取り組みです。
こういった試みにJAなどの既存の団体と連携して取り組んでいくことも可能性を広げることにつながるでしょう。


企業の農業参入についてはどうお考えですか?

  • 小田滋晃教授

    小田滋晃教授

モヤシやきのこ類などのように、野菜工場で栽培し、出荷する作目をのぞくと、苦労している企業が多いではないでしょうか。
農業は天候など自然条件に左右されますし、さらに農産物は傷んでしまうと数日で商品に価値がなくなってしまうなどのリスクが大きいため、うまくいかない例が多いように思います。
工業製品を作るようにはいかないのです。
もちろん成功している例もあります。
企業が本業をそのままにしながら農業をしているようなケースで、関西でいうと、京都の漬け物会社、西利の「西利ファーム」や、大阪府のいずみ市民生協の(株)「いずみエコロジーファーム」などがあげられます。
これらの企業は食品残渣を堆肥化し、自社の農場で利用するリサイクルループで農業に取り組んでいます。


生産者が面積の拡大を図って、大規模化していくことについてはいかがですか?

大規模化に成功している生産者は数多くいます。
効率的に経営し、農産加工や農業体験などを取り入れながら戦略的な経営を行い成功している生産者も数多くいます。
ただ、農業は規模が大きくなれば生産性が単純に上がるわけではありません。
そこが、難しい。
自然災害で収穫寸前の農作物が一気にダメになってしまうといったリスクも常に抱えています。
また、農業は企業化しても家族経営が多いことも特徴です。
ヨーロッパなどもそうなのですが、企業化している生産者も、実体は家族経営の延長である場合も多くみられます。
経営者として戦略を練り、通年で従業員を雇い、その給与を含めて売上を上げることはなかなか難しいのです。
家族経営から従業員を雇用し、安定した売上と利益を継続的に確保しつつ企業化を図ることは、農業にとって大きな挑戦となります。


ネットワークを築き、多様な農業を実践する「守りの農業」
これからの農業には何が必要でしょうか。

鍵となるのは多様性とネットワークです。
地域に様々な人がいて、多様な農業経営があることが理想だと思います。
大規模経営をしている人もいれば、家族経営で家庭を維持できるくらいの規模で農業をしている人もいる。
いろいろな人が集落や地域にいて、それぞれがつながり、何かがあったらすぐにサポートし合えるようなネットワークを作ることが大切なのだと思います。
生産者だけのネットワークではなく、JAなどの既存の組織や消費者とも連携し、情報を交換し、互いに助け合える農業を作り上げていくことがこれからの農業には不可欠といえるでしょう。
また、農業者への教育も必要です。
ドイツのマイスター制度のように、ヨーロッパでは補助金に教育がセットされ、農業経営をする人が、段階に応じて職業教育を受けることができる仕組みが作られています。
こういった仕組みは、日本も参考にしていけるといいですね。


最後に農業を担っていく生産者にメッセージをお願いします。

  • 小田滋晃教授

    小田滋晃教授

企業家精神を持って地域を引っ張っていくような生産者を目指してほしいですね。
経営発展を考えているのなら、オーナーが何でも抱えてしまうのではなく、自分のアイディアを実現できる人材育成を含めた経営者を目指してください。
私はこれからの農業経営に大切なのは「守りの農業」だと考えています。
「守る」とは、農地を守る、地域を守ること。
農林省が掲げる「攻めの農業」も、農地を守り、次世代につないでいくために「攻める」にほかなりません。
農業はとても多様で、さらに日本は地域によって差が大きく、様々な農業が日本の国土で営まれています。
そういった多様性を認め合い、大切にしながら、連携していくことが農業の可能性を切り開くことになるのです。
そういう人たちを応援していきたいと思います。


2016年12月22日掲載

★今回の特集でご紹介した事例の詳細は下記のサイトでご覧ください。
三重県伊賀市「菜の花プロジェクト
青森県三沢市「フラップあぐり北三沢」(三沢市のサイト内)
(株)「京つけもの 西利
大阪いずみ市民生活協同組合

★今回取材させていただきました、小田先生の書籍はアマゾンにてご購入いただけます。
動き始めた『農企業』
躍動する「農企業」―ガバナンスの潮流
進化する「農企業」―産地のみらいを創る
農企業」のアントレプレナーシップ: 攻めの農業と地域農業の堅持