病害虫・雑草防除ガイド - 雑草の話
エノコログサの野生種は、穀物アワの祖先!?
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エノコログサ属(Setaria )の植物について

 日本国内の畑地に生育している雑草は約300種といわれ、そのうち60種が特に問題となる主要雑草と位置付けられています表1)。内訳を見ると広葉雑草ではキク科が最も多く、またイネ科については9種の雑草が挙げられています。生活型で分けると一年生と多年生と半々位の割合です。特にイネ科については種類が多いのもさることながら、いずれの種も発生頻度が極めて高い雑草ばかりです。すなわち、メヒシバ(写真1)、エノコログサ(写真2)、オヒシバ(写真3)の類は普通畑、樹園地、芝生、林苗圃等において常に難防除雑草として位置付けられる厄介な存在です。イネ科の植物は全世界で約5000種ありますが、その中には稲、麦類、トウモロコシ等の多くの栽培植物を含んでいるのと同時に、多くの雑草種をも含んでいます。

 前置きが長くなりましたが、今回はイネ科雑草を代表してエノコログサ属(Setaria)について紹介します。メヒシバ、オヒシバ等についてはいずれ触れたいと思います。

身の回りのエノコログサ属

 日本に生育するエノコログサ属植物の主なものには、エノコログサ(Setaria viridis)、アキノエノコログサ(Setaria faberi)、キンエノコロ(Setaria glauca)(写真4)、ムラサキエノコロ(Setaria viridis forma. misera)等があり、その他にも変種を含め数種が報告されています。これらの植物はいずれも雑草性が強く、雑草防除の場面では、総称して“エノコログサ”とすることが多いようです。原野や溝のふちなどに生育するイヌアワ(Setaria chondrachne) や、栽培植物のアワ(粟)(Setaria itarika)(写真5) もエノコログサ属の植物です。アワ畑の中や周辺にしばしば見受けられるオオエノコログサ(Setaria × pycnocoma)はアワとエノコログサの自然雑種とされています。これらは、イヌアワを除いて何れも一年生の生活型を持っています。 

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 代表格のエノコログサは畑地、樹園地、桑園、道端、空き地などに一般的に見られる夏の強害雑草で、通常は6月頃から穂を出して、7〜9月頃に花を咲かせます。アキノエノコログサは都市部近郊ではむしろエノコログサより多く見られ、エノコログサに比べて全体的に大型で、草丈1メートルを超えるものもあります。花期は8〜9月頃で穂もエノコログサより立派で、エノコログサの穂が多くは直立するのに対し、アキノエノコログサの穂はわん曲する点も見分け方のポイントです。キンエノコロはその名前が示すように、穂が黄金色なので容易に他種と区別できます。花期は8〜9月頃で、穂が逆光に映し出されて黄金に輝く姿はことの外美しいものです。ムラサキエノコロはエノコログサによく似ていますが、茎、葉、穂などが紫色を帯びる点が異なります。これらはいずれも主に種子で繁殖します。樹園地等で茎葉処理除草剤を散布後、一時的に裸地化した圃場において他種に先駆けて発生することもしばしば見受けられます(写真6)。

エノコログサの名前の由来

 多くのイネ科植物の受粉システムは自家受粉か風媒による他家受粉であるため、一般に花が地味で出穂・開花してもあまり目立ちません。また出穂前は近縁種でなくても見分けるのは困難です。その中にあって、エノコログサの仲間は、和名の由来がその穂が犬の子(エノコロ)の尾に似ているところから付けられた様に、独特な円柱状形の穂を持っていています。因みに、英名はFoxtail grassといい穂の形に対する感覚は洋の東西を問わず似ているようです。エノコログサはこの愛嬌のある穂を持っているためイネ科の雑草の中で、一般的によく知られた植物と言えます。ネコジャラシの別名が示すように、その穂を使ってネコを遊ばせると名前の通りよくじゃれますし、誰しも幼少期に一度は穂をとって遊んだ記憶があると思います。

人類への貢献

 このように、私たちにとても馴染みの深いエノコログサですが、遺伝資源としても重要な役割を果たしてきました。前出の栽培植物のアワは今では国内でごく僅かに栽培されている夏性の作物ですが、戦前の米穀配給統制法の実施以前までは米の流通が及ばない山村地域ではヒエ(稗)、キビ(黍)などと並び主要穀物として食生活を支えてきました。形態的、遺伝的に近縁なエノコログサはその祖先野生種と考えられています。要するに雑草のエノコログサの仲間から栽培植物のアワが生まれたということです。アワとエノコログサは容易に交雑するため、自然雑種であるオオエノコログサはアワ畑の周りに頻繁に観察することができます。オオエノコログサは形態的には栽培種のコアワに似ていますが、オオエノコログサの種子は熟すと容易に脱粒するので区別できます。また、インドでは日本でも一般的に見られるキンエノコロの中に成熟しても種子があまり脱粒しない栽培型のものがあり、栽培植物のサマイ(Panicum sumatrense)やコドラ(Paspalum scrobiculatum )と混作され、その穀粒は補助的な食材としてパンなどの伝統的な食品に加工されています。また、考古学的な調査によると農耕開始以前の狩猟生活時代におけるメキシコでは澱粉源としてエノコログサが大量に採取されていたことが証明されています。

 エノコログサに限らず現在は雑草とし虐げられている植物の中にも実は栽培植物の祖先種であるもの、ライムギやエンバクのようにもともとコムギやオオムギ畑の雑草だったものから、二次的に栽培化されたもの、また過去に有用な植物とされ、食文化の変化と共に現在では雑草としての地位に甘んじている植物もあります。

 人類は長い年月を経て多くの野生植物から栽培植物を選抜し、また育成してきましたが、その過程において多くの雑草が重要な役割を果たしてきました。雑草は農業にとって確かに招かれざる存在ですが、同時に身近で貴重な遺伝資源として、あるいは生きた文化財としても価値の高い植物であることは興味深いことです。

(参考文献:笠原安夫(1971)「雑草研究」No.12、草薙得一(1982)「農業技術」37(9)、藤巻宏編(1998)「地域生物資源活用大辞典」農文協、阪本寧男(1988)「雑穀のきた道」日本放送出版協会、木俣美樹男(2000)「雑穀研究」No.12)

(写真提供: 写真1-3 株式会社インタラクト、写真4 「鮫川の野草」西成典子 監修(2001)より 鈴木 一 氏、写真5 佐藤 佳岳 氏)

 

シンジェンタ ジャパン株式会社
開発本部開発部
中谷 英夫

2003年3月24日掲載

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