病害虫・雑草防除ガイド - 害虫と病気の話
65

ピシウム菌による野菜苗立枯れ

※写真をクリックすると大きい画像をご覧いただけます。

ピシウムウルティマムによる
キュウリの苗立枯れ

幼苗期の野菜は病気への抵抗力が弱く、とくにピシウム菌やリゾクトニア菌による苗立枯病の被害を受けやすくなります。これらの菌は畑地の地表付近の土の中に生息し、多くの作物に寄生して、死んだ植物も利用して長期間生き残ることができます。そのため、連作や短期輪作の圃場では常にこれらの病原菌が生存していると考えるのがよいでしょう。ピシウム菌は新鮮な有機物を好むため、収穫後に作物の残渣を畑に放置したり生のまますき込んだりすると、それらを利用して菌が増え、苗立枯れが起こりやすくなります。残渣を堆肥化させると、病原菌を抑制する微生物が増え、病害は起こりにくくなります。

ピシウム菌とリゾクトニア菌は分類上まったく異なる生物群なので、発病生態や有効薬剤が異なります。両者による苗立枯れは病徴で区別することができます。ピシウム菌では、最初、地際部分の胚軸や根の一部が緑色を保った状態で軟化し、腐敗して倒伏・枯死します。リゾクトニア菌では、地際部分が褐変あるいは黒変し、くびれを生じて倒伏・枯死します。

ビート根の細胞の中に形成された
ピシウムアファニダマタムの卵胞

日本では、30種以上のピシウム菌が植物病原菌として知られていますが、これらの内、野菜に苗立枯れを起こすものは数種で、日本の野菜畑ではピシウム アファニダマタムとピシウム ウルティマムという種が最も良く発生します。両種とも成長が非常に速く、温度と湿度が好適だと、植物体上で1日に3センチ近くも菌糸を伸ばします。両種とも雨後などの過湿条件を好みます。好適温度は両種で異なり、アファニダマタムは夜温が25〜35℃、ウルティマムは15〜28℃を好みます。アファニダマタムは、遊走子と呼ばれる水中遊泳性の胞子を形成し、雨水や潅漑水に混ざって伝搬します。両種とも卵胞子と呼ばれる耐乾性の胞子を形成するため、数年間にわたって土の中で生存し、これらが主な伝染源になります。

苗床などで多湿、密植状態になると、ドミノ倒しのように立枯れた植物の先端から隣の苗に菌糸を介して次々に広がり、数日で苗が全滅することもあります。ピシウム菌による苗立枯病の罹りやすさは、野菜の種類によって異なり、ウリ科、アカザ科、ナス科でとくに被害を受けやすく、アブラナ科やキク科では被害が比較的少なくなります。ただし、後者の作物でも、多湿、密植状態では激しい発病がみられることがあります。ピシウム菌の発生を未然に防ぐためには、このような栽培条件の改善と、伝染源となる罹病植物の除去が有効です。

 

大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科 植物バイオサイエンス分野
東條元昭

2007年8月2日掲載

ページの先頭へ戻る
クッキー削除