病害虫・雑草防除ガイド - 水稲雑草シリーズ
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ノビエの種類と雑草害

 「農業とは雑草とのたたかいである」といわれるように、雑草による悪影響を取り除くこと、すなわち雑草防除が農業生産性の維持・向上に重要であることを前回お話しました。
 今回は、日本の伝統的農業である稲作の歴史の中で、最も大きな影響をもたらしてきた「ヒエ」の種類とその雑草害について簡単に紹介しましょう。

ヒエの種類

ヒエは漢字では「稗」、分類学的に言うとイネ科のヒエ属(学名としてEchinochloa)には米作地帯の代表的雑草である野生種と、 稲作が不適な地域でみられる栽培種(食用ヒエ)が含まれます。古来、この栽培種は東北地方などで冷害に備えるための対窮作物として重要でしたが、冷害に強 い水稲品種普及のおかげで現在ではほとんど栽培されることはなくなりました。
 一方、ヒエ属の野生種は総称してノビエと呼ばれており、その生態・形態は栽培種とはかなり異なっています。最も異なる点は雑草に多く見られる「脱粒性」で、ノビエは出穂して登熟(実が稔ること)中にどんどん種子は落下してしまいます。
 水稲栽培において通常日本でみられるノビエには、水田のみに発生するタイヌビエ(Echinochloa oryzicola Vasing.)と暖地に主に見られるヒメタイヌビエ(E. crus-galli Beauv. var. formosensis Ohwi)、および水田および低湿地から畑でも発生するイヌビエ(E. crus-galli var. crus-galli)があり、古くからこれらの雑草防除は、水稲栽培の歴史の中で重要な要素となってきました。また、水田には生えることがなく乾燥地を好むノビエとしてもう一種、ヒメイヌビエ(E. crus-galli Beauv. var. praticola Ohwi)を加えると、日本産のノビエには2種・3変種が存在していると言われています。
 これらの種類を見分けるには、このように水田や畑地など生育している環境、株の開張程度、種子の大きさ・形態から類別できます。

ノビエによる雑草害

これらの中で、特にタイヌビエは、出穂までの形態が水稲の草型と良く類似しており、手取り除草の時代でもよほど経験を積まないと水稲との見分けが難し く、完全に抜き取ることは難しい雑草として知られてきました。またタイヌビエは、水田条件に最も適合した生活型を有する雑草の一種でもあり、水稲との競合 が最も大きな強害草とされています。近年話題の無農薬栽培で、アイガモや米ぬかなどの有機資材利用による雑草防除が試みられていますが、タイヌビエだけは どうしても人力に頼る「ヒエ抜き」作業に頼らざるを得ないことからも、これらのことがうかがい知れます。
 ノビエの水稲に対する雑草害については 古くから多くの研究例があり、水稲との間で光や土壌養分競合をすることで、茎数・穂数を減少させたり登熟歩合を低下させる結果として、収量や品質の低下を 引き起こすことが明らかにされています。雑草による水稲の減収程度は、一般的に雑草の全生育量と負の相関があることが知られており、タイヌビエの場合にも 水稲収量(精籾重)との間に直線的な関係が報告されています (下図参照)。またタイヌビエの風乾重として、おおよそm2当たり数十g以上で、水稲収量に影響を及ぼすようになると言われています。

 除草剤利用が一般的になり、現在では数多くの水田用除草剤にノビエに効果の高い成分が配合されているので、目に見える雑草害をノビエがもたらすことは非 常に少なくなりました。しかし一方で、近年はタイヌビエだけでなく、種内変異が最も多いとされるイヌビエも、稲刈り前の水田で穂を垂れる姿が多く見られる ようになってきています。すなわちノビエは水田から無くなったわけではなく、除草剤の効き目の合間を縫って、ちゃんと種子を落として根づいているのです。 その意味から、ノビエの種類を問わず安定して防除できる除草剤は今後もますます求められており、私達も日夜開発・普及に努めています。

 

シンジェンタ ジャパン株式会社
開発本部開発部
森島 靖雄

2003年1月23日掲載

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