果菜における難防除害虫コナジラミ類の特徴と防除ポイント
なぜ、コナジラミは難防除害虫なのか?
✓ 虫が小さく、被害が出るまで気づきにくい。
✓ 農薬に抵抗性を示す系統が存在する。
✓ 広食性で多くの植物に寄生できる。
✓ 生育の速度が速く、増殖が速い。(*)
✓ 単為生殖(雄がいなくても雌だけで増殖)が可能である。(*)
✓ 飛翔できる。
✓ ウイルスを媒介する。媒介抑制のための要防除水準が非常に低い。
(*)は薬剤抵抗性が発達しやすい害虫の特徴です
ここでは難防除害虫コナジラミ類の特徴と防除ポイントを解説します。
農業上問題となるコナジラミ
|タバココナジラミ(Bemisia tabaci)の形態
【タバココナジラミ 成虫】
【タバココナジラミ 1齢幼虫と卵】
【タバココナジラミ 3齢幼虫】
【タバココナジラミ 蛹と蛹殻】
- 【成虫】
- 体長約0.8mm。体は小さく細め。
羽同士が重ならず、羽の隙間から背中が見える。体色は黄色味が強い。
- 【4齢幼虫(蛹)】
- 毛(分泌物)が少ない。流線型で中央が盛り上がっている。黄色味が強い。
- 【卵】
- 淡褐色(産卵直後は透明)
日本在来種も存在するが、害虫として問題化しなかった。1989年にバイオタイプB (シルバーリーフコナジラミ)、2004年にバイオタイプQが侵入し、野菜における重要害虫の地位を確立した。
|オンシツコナジラミ(Trialeurodes vaporariorum)の形態
【オンシツコナジラミ成虫】
【オンシツコナジラミ幼虫と蛹】
- 【成虫】
- 体長約0.8~1.1mm。体は大きく太め。羽同士が重なり、羽で背中が隠れる。体色は黄白色。
- 【4齢幼虫(蛹)】
- 毛(分泌物)が多く、長い。厚みのある小判型。体色はやや半透明で黄白色。
- 【卵】
- 黒褐色(産卵直後は透明)
- 1973年に海外から侵入。1980年代までは「コナジラミ」といえば、オンシツコナジラミをさした。薬剤感受性が高く、農薬による防除が比較的容易である。
タバココナジラミの被害
1.直接害
- 吸汁害
- 吸汁により生育不良や収量・品質の低下をまねく。
例)メロン果実糖度の低下 ⇔ 成幼虫 400頭以上 /葉
- すす病
- 植物体上に付着したコナジラミの排泄物を養分としてカビが生える。
収穫物が汚れ、商品価値が下がる。
例)メロンのすす病 ⇔ 成虫100頭 / 葉
【タバココナジラミ_メロンの果実の被害】
- 異常症
- コナジラミの寄生により発生する障害で、トマトの異常着色症、カボチャの白化症などが知られている。
例)トマトの着色異常症 ⇔ 3齢幼虫 80頭以上 / 果房隣接の2葉
2.間接害
- ウイルス病
- トマト黄化葉巻病(TYLCV: Tomato Yellow Leaf Curl Virus)
ウリ類退緑黄化病(CCYV: Cucurbit Chlorotic Yellows Virus)
など様々なウイルス病を媒介します。
|タバココナジラミが媒介するウイルス病 – トマト黄化葉巻病
侵入時期 | 1996年 静岡、愛知、長崎に侵入。イスラエル出身。 | ||
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病徴 | 【初期】 生長点において葉縁が上に反り、葉脈間が黄化する。その後、葉が小さくなり、葉縁が下を向き、強い葉巻症状となる。 【後期】 生長点付近で節間が短くなり、黄化が激しくなる。株全体が委縮する。発病後は開花しても結実しないことが多い。 ※ 若い株ほど早く発病し、被害も大きい |
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系統 | 複数の系統があるが、日本では「イスラエル系統」と「マイルド系統」が存在。どちらも強毒。 | ||
伝染方法 | 虫媒伝染 | する | タバココナジラミ成虫と幼虫がウイルスを獲得し、死亡するまで伝搬能力を持つ。 |
接ぎ木伝染 | する | 台木・穂木間で感染。 | |
経卵伝染 | しない | 保毒虫の卵は無保毒。 | |
接触伝染 | しない | 葉かき・摘心作業はOK。 | |
種子伝染 | しない | 種子からうつることはない。 | |
土壌伝染 | しない | 感染株をすき込んでもOK。 |
【TYLCV(トマ黄化葉巻ウイルス)による萎縮症状】
|タバココナジラミが媒介するウイルス病 – ウリ類退緑黄化病
確認時期 | 2004年 九州地域のメロン・キュウリで確認 | ||
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病徴 | 1. 退緑小斑点による黄化症状 【初期】色が抜けたような点々(退緑小斑点)ができる。小斑点が増え、斑点同士がつながって大きくなり、徐々に黄色くなる。 【後期】感染した葉全体が黄色くなる。キュウリではさらに葉縁が下側に巻く症状がみられる。 ※ 黄化症状は感染した葉の上位にしか進まない。 2. 黄斑型症状 下葉にのみ見られる症状で、ぼんやりした黄色の斑点が生じ、徐々に大きくなる。 |
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拡大状況 | 2004年に熊本県で初発生し、関東以南の幅広いエリアで報告されている | ||
伝染方法 | 虫媒伝染 | する | タバココナジラミ成虫と幼虫がウイルスを獲得し、死亡するまで伝搬能力を持つ。 |
接ぎ木伝染 | する | 台木・穂木間で感染。 | |
経卵伝染 | しない | 保毒虫の卵は無保毒。 | |
接触伝染 | しない | 葉かき・摘心作業はOK。 | |
種子伝染 | しない | 種子からうつることはない。 | |
土壌伝染 | しない | 感染株をすき込んでもOK。 |
【CCYV(ウリ類退緑黄化ウイルス)による黄化症状】
黄化初期葉
黄化症状
黄斑型症状
コナジラミの生態
|生活環
【コナジラミ類の生態】
生育 ステージ |
タバココナジラミ 生育日数 |
オンシツコナジラミ 生育日数 |
コメント |
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卵 | 7日 | 8日 | 葉裏や新芽に産卵。 円形に並ぶ。 |
1齢幼虫 (歩行幼虫) |
3日 | 6日 | 歩行可能。定着場所を探す。 |
2齢幼虫 3齢幼虫 (定着幼虫) |
2日 3日 |
2日 3日 |
主に葉裏に定着し、吸汁して成長。 |
4齢幼虫(蛹) | 5日 | 5日 | |
成虫 | 寿命 約20-30日 1頭当たりの産卵数は60~200個 |
寿命 約30-40日 1頭当たりの産卵数は30~500個 |
飛翔可能。 羽化8日後から産卵できるようになる。 メス単体で繁殖が可能(産雄性単為生殖)。 |
生活環 | 卵~成虫まで約 22 日 | 卵~成虫まで約 28 日 |
・露地で越冬できない
越冬は施設内でのみ可能であり、春に気温が上昇すると施設から露地へ移動する。
・寄主範囲が広い
バイオタイプ B で88種、バイオタイプ Q で64種の寄主植物が知られており、野外の雑草でも生存可能である。ただし寄主の好みはあり、バイオタイプ B はキャベツでよく増えるがバイオタイプ Q はあまり増えず、一方でバイオタイプ Q はピーマンやインゲンでよく増え、バイオタイプ Bはあまり増えない。
・1日の絶食で餓死する
収穫後に作物が片付けられてしまうと、コナジラミは餌を求めて他のハウスや露地野菜に移動する。
|豆知識①:コナジラミは一体どれだけ増えるの?
|豆知識②:薬剤感受性が高い生育ステージは?
各有効成分によっては、コナジラミ類の生育ステージ別に殺虫活性が異なります。幼虫と成虫は比較的薬剤が効きやすく、それ以外は薬剤が効きにくいということを理解しましょう!
果菜のコナジラミ類 防除のポイント
① 発生源の除去
収穫を終えた作物の速やかな撤去、野良作物の除去を行う。雑草地では増えにくいが、ウイルス病対策が必要な地域は、1ヶ月間隔で圃場周辺の除草を行う(クズ、セイタカアワダチソウ等は寄主となる)。
② 苗からの持ち込みを防ぐ
栽培圃場と隔離した育苗施設を確保し、薬剤防除を実施する等して、無寄生の苗を育成する。
③ 早期発見 ・ 低密度を保つ
多発してから薬剤を散布してもすぐ密度が回復してしまうため防除が難しくなる。初期発生を知り、早めに散布することが重要。
④ 効果のある薬剤を選ぶ
特にタバココナジラミ バイオタイプ Q は多くの薬剤に感受性が低下しているため、有効な薬剤を用いることが重要。