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1.ハウス全体の能力を向上させ、いちごの周年栽培を可能に。
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夏秋どりいちごは、冬春どりいちごとくらべて高値で取引されることから、近年、国内でも冷涼地を中心に栽培面積が増えつつあります。
今回は、段ボールを使った栽培ベッドなど独自の栽培システムを構築し、高品質な夏秋どりの四季成りいちごを手がける北海道中富良野町の小林 洋様にお話を伺いました。


──「段ボールを使った栽培ベッド」という発想は、どこから生まれたのでしょうか?

> あるきっかけから、勤めていた商社を脱サラし、11年前に北海道の地で新規就農者として農業を始め現在に至ります。最初に手掛けた作物がイチゴだったこともあり「市場のニーズが高く、収益性も期待できるいちごの周年出荷を成功させたい」という思いから仲間たちと工夫や研究を重ね、目処が立つところまでこぎつけました。
そしてこれからいよいよという時です。忘れもしない2年前の3月11日、東日本大震災が起きてしまいました。北海道から東北に拠点をかえて、ともに頑張ってきた生産者の仲間が施設の建築中に、津波に流されてしまいました。今もその仲間は見つかっていません。
くしくもその年、母や祖母が相次いで他界し、たくさんの人間が私の前から消えて行ってしまった。そのときは心が折れそうで、「もう農業をやめよう」と考えるまで思いつめていたんです。
しかし、自分の技術や考え方を東北で役立てたい、と意気込んで東北の地で頑張り夢半ばで去って行った仲間を思うと、それは許されませんでした。
『自分も全てを流されたつもりで、自分の力でやり直せる方法を』という想いの中で、考えついたのが「段ボール」の栽培ベッドなんです。

──段ボールという素材上、強度面での問題はありませんでしたか?

> 栽培ベッドは隔壁を設けて面構造で支えています。
栽培槽は側壁を三角形に折り込んで支えることで、鉄パイプや樹脂を上回る強度を持たせました。
この段ボール素材は、耐久性だけではなく、冬期には蓄熱した熱を放出して夜温の下降をゆるやかにできますし、夏期には明け方に吸収した冷気を放出して、日中の室温上昇をゆるやかにしてくれます。
ハウスの能力の生命線である、冷暖房効率という点で、非常に優れているんですよ。
ヒートポンプシステムと一緒に設計したことにより、今までの常識を打ち破るシステムが構築できました。

──導入コストの面ではいかがですか?

> 栽培ベッドとその架台を段ボール製にしたことで、いちごの高設栽培と同じレベルであれば、従来の3分の1程度のコストで導入することが可能です。
生産者の経済的なハードルが下がり、管理作業も慣行の土耕栽培より格段に楽になる。
これなら被災地の生産者でも経済的に導入しやすいし、日本農業の栽培システムの向上に微力ながら貢献できるのではないかと自負しています。
将来的には、海外、例えば、アジアの農業国などでもこのシステムが活かせるといいですね。

──この栽培システムには、コスト面以外にどのようなメリットありますか?

> 栽培ベッドと架台は、作物や作業環境に合わせて、設置間隔やレイアウトを自由に変更でき、足場をつくれば栽培ベッドを2段、3段と重ねることもできます。
架台は折りたたんで搬送できるので、イベントなどで展示什器としてそのまま利用し、その場で収穫・調理といったデモンストレーションを行うことも可能です。
また、ほうれんそうなどの葉菜類では、前作の収穫前から次作の播種を並行して行うことで、通常の土耕栽培の3倍にあたる年間12~15作で回転させることができます。
この栽培システムを導入することで、きっと「スペースや時間軸」の概念が変わると思いますよ。

──いちごの周年栽培の進捗状況はいかがですか?

> 段ボール栽培ベッドなどのシステムを活用したハウス6棟で、高品質ないちごの周年栽培を行っていきたいと考えています。
栽培品種も、冬期から初夏にかけて「さがほのか」「とちおとめ」といった一季成り品種を栽培し、夏期から秋期にかけて「エラン」などの四季成り品種を自由に組み合わせるなど、当社のシステムならではと言える作型を構築しようと計画しています。
エランは、種子系で苗の入手が計画的にでき、今まで夏秋どりいちごをあきらめていた人でも、トライする価値は十分にあるのではないでしょうか。

──これから施設栽培にチャレンジする方にアドバイスをお願いします。

> この栽培システムでは、いちごに限らずトマトやメロンなどの果菜類、ホウレンソウなどの葉菜類を複合的に栽培することが可能です。
1ベッドごとに移動や交換、または積み重ねるという概念が構造上可能なので、もし栽培に失敗した場合でも、そのダメージを引きずることなく、異なる作物に入れ替えたり、違う作型に変更することにより、栽培を継続し続けられます。

今まで、失敗することで後がなくなる生産者も数多く見てきました。
そこで感じた事は、補助金などに頼らずに、「失敗の中から学べる農業」を可能にしなければならないということ。
そうでなければ、本当に必要な経験やノウハウは得られません。
天候や変化に臨機応変に対応し、進歩し続けて行くことがこれからの農業には必要だと考えています。