病害虫・雑草防除ガイド - 雑草の話
在来種タンポポからセイヨウタンポポへ変遷
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タンポポの仲間 後編

外来種であるセイヨウタンポポがここ40年余りで日本国内のタンポポ勢力図を塗り替えてしまったことは前回触れましたが、在来種と外来種のセイヨウタンポポは、外観上よく似たタンポポの仲間なのになぜこのような現象が起きているのでしょうか?

在来種と外来種の違い

まず在来種と外来種の見分け方ですが、セイヨウタンポポに代表される外来種は花を包む緑色の部分(外総包片|がいそうほうへん)が下方にそり返っています(写真1)。一方、一部の例外を除いて在来種はその部分がそり返らないので(写真2)、花が咲いている時期であれば容易に識別が可能です。ただし花がない場合は両者を識別するのはほとんど不可能です。さて外見上の明確な違いはこの総包の形だけなのですが、実は在来種と外来種は生態的、遺伝的にはまったく異なった性質を持ち合わせていることが明らかになっています。

  • 写真1:セイヨウタンポポの花
    (外総包片がそり返っている)

  • 写真2:在来種の花
    (外総包片はそり返らない)

在来種の特徴

在来種の花

前編でも紹介した森田先生はこの2種のタンポポの消長をもたらした理由として幾つかの点を挙げています。まず最も本質的な点とされているのが両者の繁殖様式の違いです。すなわちカントウタンポポなどの2倍体種の仲間は種子を生産するために有性生殖を行いますが、特記すべき点は、この仲間は極めて強い自家不和合性を持ち合わせているということです。自家不和合性とは、自分の花粉が雌しべについても種子を生産することができない性質です。種内の遺伝的な多様性を維持するためには有効な機能ですが、子孫を残すためには少なくとも2つの個体が隣接して生育していなければなりません。また受粉には昆虫による花粉の媒介が必要なので、確実に子孫を残すためにはある程度の個体群が必要になります。もし身近に在来種のタンポポを見つけたら必ずその近くには数個体の仲間が見つかるはずです。カントウタンポポなどの2倍体在来種の特徴はこのように群れることにあるとされています。

外来種の特徴

近縁種のコウリンタンポポも
単為生殖で仲間を増やします。

これに対し、倍数体のセイヨウタンポポは受粉を伴わないで種子を生産する無融合生殖(単為生殖)をすることが明らかにされています。この性質ですと、1個体だけでも生育していれば受粉を必要としないで自由に種子を生産することができ、従って子孫を残すためにも他の個体を必要としないで済むわけです。都市部の空き地などでよくセイヨウタンポポの大群落を見かけますが、カントウタンポポなどの群れが他個体と協力して世代を継承していくための共同体であるのに対して、セイヨウタンポポは一見群れているように見えても、個々の個体が自分のクローンを増殖させた結果なわけで、それぞれの個体は他個体との協力無しで子孫を残す一匹狼の集まりなのです。

またこの他にも、セイヨウタンポポが特に都市部などにおいて急激に勢力を伸ばしえた特徴として以下の点が指摘されています。まず在来種は生活サイクルが四季に対応しているのに対して、セイヨウタンポポにはそれがありません。タンポポの花は一般的には春に咲くイメージを持っている方が多いと思いますが、実際は春以外でも花を見ることができます。在来種の開花は春が中心で、結実後、夏の間に葉は枯れて休眠します。セイヨウタンポポは春に開花するものが多いのですが、その後も休眠せず一年中葉が茂り光合成をして、夏から秋にかけても花を咲かせます。結果的に年間を通して多くの種子を生産することができます。また種子は在来種よりも軽く遠くまで飛ぶことができ、発芽特性をみても春に生産された在来種の種子は夏の間休眠して秋に発芽するのに対して、セイヨウタンポポは種子が地面に落下すると休眠しないで2〜3週間のうちに一斉に発芽します。またセイヨウタンポポは発芽から開花までのスピードが速く、小さな個体でも花をつけます。

外来種が拡大した原因

在来種とセイヨウタンポポ
の雑種と思われる。

セイヨウタンポポの特徴について、これまで研究されてきた成果について紹介してきました。これらを見る限り、宅地開発などによる人為的攪乱が加えられるような条件下では、セイヨウタンポポが増殖するのも容易に理解できるところでしょう。在来種は外的要因により一端群落の個体数が減少してしまうと容易に繁殖することができず、いずれ姿を消してしまうことになります。在来種タンポポとセイヨウタンポポの交代劇は、あたかもセイヨウタンポポによって在来種が駆逐されているかのように説明されることがありますが、この点についても近年研究がなされています。

在来種タンポポはもともと日本の四季の変化に適応し、人の手が適度に加えられるような緩やかな環境の変化に適応した農村型の雑草であるといえます。事実都市部においても、自然度の高い緑化公園や川の土手などではいまなお在来種タンポポは健在です。このような環境下においては他の植物との競合が激しい夏に休眠して、エネルギーを蓄えて秋に発芽するという特性は種を維持させるために有利に働いています。いかにセイヨウタンポポであっても在来種が初めから優先している場所に取って代わることはできないのです。在来種からセイヨウタンポポへの変遷の裏には、都市化という人間による活動によって、在来種が生育できなくなった生態的な空間に、セイヨウタンポポが持ち合わせている特徴がうまく適応した結果といえます。要するに在来種の本当の敵はセイヨウタンポポではなくて都市化という環境変化であったということです。

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別名タンポポモドキと呼ばれるブタナ。
タンポポより花茎が長い。

都市の広がりと共に増えるセイヨウタンポポ、人間と自然の調和の中で生きている在来種タンポポ、この2種のタンポポの生育状況は私達のまわりにおける自然環境の指標ともいえるのではないでしょうか。皆さんのまわりで咲いているのはどちらのタンポポでしょうか?

 参考文献:森田竜義編(1994)週間朝日百科「植物の世界、第7号」朝日新聞社、堀田満編(1980)「植物の生活誌」平凡社、小川潔(2001)日本のタンポポとセイヨウタンポポ」どうぶつ社, 山口裕文編(1997)「雑草の自然史」北海道大学図書刊行会

 

シンジェンタ ジャパン株式会社
開発本部開発部
中谷 英夫

2003年10月20日掲載

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