病害虫・雑草防除ガイド - 雑草の話
果樹園周辺では、養分競合を招き、受粉昆虫の訪花機会減少も
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タンポポの仲間 前編

キク科タンポポ属は世界におよそ2000種あり生育地は北半球の温帯〜寒帯を中心に南半球のフォークランド諸島まで分布します。タンポポという名前はなんとなく外来語のような響きを持つので、かつてはその由来は外来語説が有力であったようですが、最近はこの名の語源は日本語であることで落ちついています。現在最も有力と考えられているのが日本民俗学の父・柳田国男の説で、こどもの遊びのなかにタンポポの茎(花茎)の両端をいくつかに裂いてそこに水につけて反り返らせ鼓の形に似せるものがあり、鼓を打つときの音のタン・ポンポンという音からいつしかタンポポとなったとされています。

今更いうまでもありませんが、タンポポは私たちにとって大変身近な植物で野に黄金色の愛くるしい花が咲き出すと春の訪れを感じる人も少なくないことでしょう。生育地は農村の畦道や畑の周辺から都市部の空き地や道端、また都会の僅かなコンクリートの隙間にまで及びます。江戸時代には園芸的に持てはやされ、30種以上の園芸種が栽培されていたそうです。タンポポブームは明治初期まで続きましたが、その後戦争などの影響もあってタンポポ園芸は次第に姿を消していきました。

そんなタンポポですが、ひとたび樹園地や畑地に進入すれば作物の栽培に悪影響を及ぼす雑草として扱われます。タンポポは普通畑のごく一般的な雑草として認識されていますが、特に樹園地では発生頻度も高く作物との養分競合による影響のほかにも、リンゴなどのように受粉を昆虫に頼っている果樹では、春先一面に黄色の絨毯を敷き詰めたように咲き誇るタンポポに魅了されたハチや花アブ達がその花に盛んに訪れるため、肝心のリンゴの花への訪花機会が減り、リンゴの交配率の低下を招くこともあるようです。 さて私達にとって身近なこの植物、特に在来種と外来種の関係については1960年代頃より「外来種(しばしば西洋種といわれます)に追われる日本のタンポポ」といったような見出しでマスコミなどでも盛んに紹介されました。そのお陰でしょうか、日本に生育するタンポポの仲間には在来種と外来種が存在することは最近では中学校の理科の教科書にも載っているそうで、広く知られています。ただし、ひとくちに在来種、外来種と言ってもそれぞれにはいくつかの種を含んでいて結構複雑です。

まず在来種のタンポポの仲間についてですが、タンポポ研究で多くの論文を著されている新潟大学教授の森田先生の分類法によると国内の在来種タンポポは少なくても15種に分類されるとしています。外来種の多くは受粉を伴わないで種子をつける無融合生殖(単為生殖)によって子孫を残す倍数体であるのに対して国内産タンポポには他の個体との間で有性生殖をする2倍体(注)のものが東北〜九州地方まで広く分布していています。それ以外にも無融合生殖によって種子を生産する種類もあります(国内では3倍体から8倍体まで知られていています)。国内産タンポポの場合、このような遺伝的側面を担う染色体数の多様性が種の多様性にも関係していると考えられています。

写真1:カントウタンポポ

写真2:シナノタンポポ

森田先生は在来種のタンポポを頭状花の形態とともに遺伝的側面を解析して、まずタンポポ属をモウコタンポポ節とミヤマタンポポ節の2つの郡に分け、モウコタンポポ節の2倍体タイプのものを東北から近畿地方まで広く分布するカントウタンポポ(Taraxacum platycarpum)(写真1)と近畿地方から九州北部に分布しているカンサイタンポポ(T. japonicum)に分けています。さらにカントウタンポポはカントウタンポポ(T. platycarpum ssp.platycarpum)、シナノタンポポ(T. platycarpum ssp.hondoense)(写真2)、オキタンポポ(T. platycarpum ssp.maruyamanum)の3亜種に分けられ、その中のカントウタンポポ亜種はカントウタンポポとトウカイタンポポ(T.platycarpum ssp. Platycarpum var.longeappendiculatum)の2変種に細分されています。このように在来種は代表的な2倍体のものだけをとってみても5つに分けられるということです。これに加えて倍数体のものには北海道・東北地方で良く見られ3および4倍体のエゾタンポポ(T. venustum)、 5倍体でその名の通り白い花をつけるシロバナタンポポ(T. albidum)は関東以西に分布し特に近畿以西に多く生育しています。九州や四国の一部ではこの種が主流の地域がありタンポポといえば白い花が普通と思われているようです。東京周辺でも時たまこの種をみかけますが、おそらく珍しいのでどこからか持ち込まれたものが搬出して根付いたものではないかと思われます。他にも白い花をつけるものに西日本に生育するキビシロタンポポ(T. hideoi)、東北地方で見ることができるオクウスギタンポポ(T. denudatum)があります。

写真3:セイヨウタンポポ

写真4:アカミタンポポ

一方外来種はセイヨウタンポポ(T. officinale)(写真3)と近年都市部で目立つアカミタンポポ(T. laevigatum)(写真4)が帰化しています。セイヨウタンポポはヨーロッパを代表するタンポポで現在でも世界中にその分布を広げています。セイヨウタンポポの日本への進入は、明治初期に野菜として北アメリカから種子が北海道内に導入されたとする説や同じく北海道の牧場に牛の餌として導入したものが搬出したのが最初とする説などあります。いずれにしても北海道に最初に帰化したのは間違いなさそうです。植物学者の牧野富太郎博士は1904年(明治37年)に植物学雑誌のなかで札幌に生育するセイヨウタンポポについて紹介しており、将来この種が日本全国に広がることを予想していたそうです。牧野博士の予言はまさしく現実のものとなり、今日都市部において私たちが最もよく見かけるタンポポのほとんどはこの2種の外来種といっていい状況です。セイヨウタンポポが最初に進入したとされる北海道では都市部以外の牧場や農村部でも圧倒的にこれらの種が多くなっています。日本国内ではこのセイヨウタンポポが昭和30〜40年代の 高度成長期に時をあわせるように急激に増えたと言われています。明治時代に帰化したセイヨウタンポポがここ40年余りで日本国内のタンポポ勢力図を塗り替えてしまいました。在来種と外来種、一見よく似たタンポポの仲間なのにはなぜこのような現象が起きているのでしょうか?  

この点について長年にわたり多くの研究者によってその実態が明らかになってきています。

次回は在来種と外来種の関係を中心に最近の研究成果等をご紹介します。

 参考文献:森田竜義編(1994)週間朝日百科「植物の世界、第7号」朝日新聞社、堀田満編(1980)「植物の生活誌」平凡社、小川潔(2001)日本のタンポポとセイヨウタンポポ」どうぶつ社

 

シンジェンタ ジャパン株式会社
開発本部開発部
中谷 英夫

2003年7月15日掲載

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